覚醒
「君達は馬鹿か!?何故ここに来てしまったんだ!」
ヴァリアスさんと知らない女性が俺達のそばに降り立ったが、俺には彼の言っていることが耳に入ってこなかった。
父さんが殺された。
その事実を現実として受け入れることができない。
目の前で殺されたというのにだ。
父さんが死ぬ気だということは分かっていた。
それでも生きて帰ってくるだろうと心のどこかで思っていた。
「ミカ!彼らを連れてこの場から離脱だ!ルーカス殿でさえも敗北した事実を国王に伝達しなくては!」
「了解!さぁ二人ともこちらへ!」
ミカと呼ばれた女性が俺とリオナの腕を掴んで引き連れようとする。
しかし、俺はその場から動こうとしなかった。
「何をしているんだ少年!立ち上がりなさい!」
「ア、アル!動かないと……!」
二人に引っ張られるが、動かない。
魔獣が腕を尖らせ、こちらへ勢いよく伸ばしてきた。
「くっ!」
ヴァリアスさんが剣を引き抜き、魔獣の腕を叩き折った。
綺麗な太刀筋だった。
「アルバス君、父親が死んでしまったことは残念に思う。冗談だと思うかもしれないが、その気持ちは私にも痛いほど分かる。しかし今は悲しんでいる場合じゃない!君まで死んでしまったら、ルーカス殿が命を賭けた理由が無くなってしまう!」
続いて伸びてくる腕を次々とヴァリアスさんは叩き折っていった。
まるで父さんの太刀筋に似ていた。
「この距離だからこそまだ対応できるが……寄ってこられたら厳しいな……!」
「少年!」
「アル!」
俺は以前としてして動こうとはしなかった。
しかし、これは悲しみからではない。
父さんを殺したアイツを…………薄っぺらい笑みが張り付いたアイツに対する憎悪からだ。
奥歯をギリギリと噛み締め、拳を握り込みすぎて血が流れ出る。
「わ、私も神獣で応戦します!」
「ダメだ!神獣を殺されれば魔獣の糧となってしまう!神獣は出してはいけない!」
「そんな……!」
1歩、また1歩と魔人と魔獣が近付いてくる。
ヴァリアスさんが押され始めた。
「ぐっ……!これ以上は……!」
「先輩!この少年は見捨てるべきです!我々には使命があります!」
「アルを見捨てるなんてできません!」
「ここで全滅しては意味がないのよ!」
「ダメ!見捨てるなんてしないでください!」
沸々と心の奥底から真っ赤に染まる何かが湧き上がってくる。
これはきっと怒りだ。
過去のどんな出来事とは比にもならないほどの強い怒りが俺の視界を
奴を殺せる力を。
父の仇を取ることができる力を。
「ああああああああああ!!!」
気持ちを押し出すように、声に変えるように叫んだ。
「アイツはッッッ俺が殺すッッッ!!!絶対にッッ!!!!!」
今まで口にしたことがないほどのシンプルな殺意。
感情的に動いていると自覚できるも止まらない。
立ち上がり剣を抜いた。
「やめろ!君じゃ魔獣には───!」
剣を抜いたと同時にカードが俺の目の前に出現した。
意識した覚えはなかったが、間違えて召喚してしまったのかと思った。
ナナドラが描かれたカード。
『???』とされていたスキルは明確に表示されており、突如としてカードの記載事項の全てがキュラキュラと書き換わっていく。
──────────────────
【ナナドラ】 Lv1
○攻撃力:10
○防御力:10
○素早さ:10
○特殊能力:10
スキル:『七大進化【???、???、憤怒、???、???、???、???】』
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
【
○攻撃力:10000
○防御力:10000
○素早さ:10000
○特殊能力:10000
スキル:『
──────────────────
(10ツ星……!?それに何だこのステータスは……!?)
俺の相棒に何が起こったのか瞬時に判断することはできなかった。
しかし、気付けば俺は叫んでいた。
「顕ッッッ現!!」
大爆発が起きたような轟音が鳴り響いた。
少しでも力を抜いてしまえば吹き飛びそうなほどにカードが強く振動し、中から光が勢いよく飛び出してくる。
飛び出してくるのは龍。
しかし、父さんの神獣とはまた違うタイプの龍だ。
全身は光沢のある鎧のような紅色の外皮に覆われ、巨大な二翼を羽ばたかせ、その眼光は睨むだけで射殺できそうなほどに鋭く、あらゆる物体を噛み砕かんとする牙が並々と顔を覗かせていた。
「ゴギャアアアアアアアアア!!!」
一声咆哮を上げるだけで全ての生き物が動作を止め、ビリビリと体の芯まで震え上がらせる。
「何だこれは!?」
「アル……これはアルが……!?」
説明はできない。
しかし、やるべきことは分かっていた。
俺の意思にナナドラが応えてくれたんだ。
「やっちまえッッッ!!
「ゴアアアアアアア!!」
地を吹き飛ばす勢いで向かっていった光線は、魔人を守ろうと体を大きく広げた魔獣なんぞ紙のごとく吹き飛ばし、そのまま魔人ごと突き抜けていった。
光線は遥か彼方の森までも吹き飛ばし、その通り道には魔人どころか草木すら消滅していた。
「…………やったのか…………?」
一瞬の出来事に、ヴァリアスさんが呆然と呟いた。
「うっ…………」
「アル!?」
突然俺は目の前が暗くなり、信じがたいほどの疲労感に襲われ倒れ込んだ。
「アル、しっかり!!アル──────」
リオナの声が遠くなっていくのを最後に、俺の意識はそこで途切れてしまった。
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