別れ
「ダメだ!」
反射的に俺は答えてしまっていた。
「父さんが死ぬなんて、俺は嫌だ!」
「仕方がないんだアル。力があるものには相応の重責が担う。それはアルにも分かるだろう?」
「なんで父さんじゃないとダメなんだ!?他にも戦える人はたくさんいるはずだろ!?」
「いないんだよ。魔獣を倒せるような人は、限られてくる」
「でもっ…………数で囲ったりすれば……!」
「それこそいけない。ロートル並みの神獣で囲えば話は変わるが、中途半端な実力では魔獣の餌になってしまうだけだ」
父さんの言うことは頭で全て理解できる。
それでも納得がいかなかった。
どうして死ぬと分かってる父親を送り出すことができようか。
「他国の
「だけどっ……!」
その時勢いよく家の扉が開き、外にいた黒ずくめの男が入ってきた。
「連絡が来ました!魔人は一直線にこちらへ向かってきていると……!ルーカス殿、準備はよろしいか?」
「ああ、私が行こう」
「父さん!!」
父さんは俺の言葉では止まることなく、支度を整えながら穏やかに俺に笑いかけた。
「アル、父さんは再び魔獣掃除人として仕事ができることを誇りに思っている。だから、彼や国王陛下に対して恨むようなことは思わないでくれ」
「…………っ!」
「彼の仕事もまた、苦しく辛いものでもあるんだ」
なぜ父さんが庇うような発言をするのか分からなかった。
俺からしたら「死ね」と言いにきたようなものだ。
決して許すことはできなかった。
「なら俺も一緒に戦う!神獣……はダメだけど、父さんから教わった剣術がある!」
俺は父さんから授かった剣を突き出した。
しかし、父さんは静かに首を横に振った。
「魔獣は既に人智を越えた力を有している。一人の剣術だけでどうにかなるレベルじゃない」
「でもっ!」
「魔獣掃除人としての仕事としてと言ったが、それ以前に私はアルやこの国の人を守りたいんだよ。アルと過ごした15年間は、楽しかった」
父さんがそっと俺の肩に手を置く。
俺は目に涙を浮かべた。
まるで遺言のように話す父を止めることができなかった。
「片腕と片目を失い、実質相棒も失った私は生きる目標を無くしてしまったが、アルを託されたことで世界が変わって見えた」
「俺は…………!」
「アルには父さんの知っている戦い方の全てを教えた。必ず父さんがこの国を守る。だからアル、自分の相棒を大事にし、強く生きろ」
そう言って、父さんは家を出た。
「アルバス君、君は国内へと逃げなさい。しかし、魔獣のことは誰にも話してはいけない。ルーカス殿が何故ここまで秘密にしていたか分かるだろう」
魔獣の存在は国家機密。
世界を破滅に導くかもしれない可能性。
「行くぞヴァリアス。魔獣のところまで案内しろ」
「はい」
「父さん!」
すぐにでも向かおうとする父さんを呼び止めた。
最後にこれは、これだけは言っておかなければならない。
「俺も!!父さんの息子で良かった!!!」
涙を溢しながらの言葉に父さんは少し驚いていたがすぐに穏やかに微笑み、そして走り出した。
木々がザワザワと騒ぎ出し、風が強くなる。
上空には暗雲が立ち込め、まるで嵐が来る前兆のようだ。
結局、父さんが戦うところは一度も見ることができなかった。
学園でダントツの剣術を持つ俺でさえ、隻腕の父さんに一度も勝てなかった。
きっと神獣を顕現できなくなってからさらに修練を積んだんだろう。
きっとこの国でもトップクラスの戦闘能力があるに違いない。
そんな父さんに俺は一度でもまともに親孝行できたのだろうか?
父さんは俺がいてくれたから生きる目標ができたと言っていた。
神獣の扱い方を教わり、剣術を教わり、生きていく上での処世術のようなものも教わった。
しかし、一度でも形にして恩返しできたのか?
父さんがいなくなってから初めて伝えたいことが止まらなくなった。
なぜさっきは一言しか話せなかったのか。
もっと他にも伝えなければいけないことがあったんじゃないだろうか。
そうだ。
一度だってちゃんとお礼も言えてなかったじゃないか。
それなのに…………あんな別れの仕方はあんまりじゃないか。
父さんは来るなと言っていたが……俺にも何かできることがあるんじゃないのか?
父さんが命を賭して立ち向かうというのに、その息子である俺だけが逃げるわけにはいかないじゃないか。
「俺も……戦う準備をしないと……!」
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