魔人と魔獣
「まず…………アルには謝っておかなければならないことがある」
「謝ること?」
「ああ。父さんはアルに秘密にしていたこと、それに嘘をついていたことがある」
秘密……にしていたことはなんとなく分かる。
だけど嘘をついていたことというのはどういうことだろうか。
「一つずつ順を追って話していく。まず魔人と魔獣の存在についてだ。これらは重要秘匿事項として隠匿され続けているものになる」
「うん、俺も聞いたことがないよ」
「魔人の存在…………これは端的に話すと魔獣を使役する心の壊れた人間のことを指す。そして魔獣とは…………人の心が長期間に渡って
悪魔に憑かれた獣……故に魔獣。
「どうしてそれが秘密にされるのさ」
「…………危険だからだよ。魔獣は通常の神獣よりも遥かにステータスが高く、そして魔人の命令通りに無作為に人を殺す。アルも聞いたことがあるんじゃないか?『突発的に発生した災害によって町一つが無くなった』話とか」
「あるよ。確か数年前に他国で発生したとかなんとか…………まさか」
「魔獣のせいだ」
嘘だろ……。
聞いた話だと約300人以上が死んだって聞いたけど、それがまさか人災だったって言うのか……。
「もしも魔獣の存在を世間に公表した場合のメリットデメリットを考えた場合、意図的に魔獣を生み出そうとする輩が出てこないとも限らない」
「そんなことができるの?」
「不可能ではないだろう。人の心を壊すほどの負荷を与え続ければ、生まれる確率は高くなる。だからこそ情報統制を取らなければならない」
「でも俺達の国だけでそんなことをしても意味ないじゃないか」
「信じ難いかもしれないが……これは100年近く前から続く全世界共通事項だ」
「うっそだぁ!」
そんな完璧に封じ込めるわけないじゃないか。
だって十数年前まで近隣諸国とも戦争を繰り広げていたんだぜ?
そんな戦争中の最中に魔獣が生まれでもしたら、相手国が助けてくれるわけがない。
「そもそも他の国が相手国に送り込むために魔獣を生み出そうとしててもおかしくないじゃんか!」
「そういう国も過去にはあっただろうな。しかし、結局のところ魔獣を制御することはできなかったのだろう。国一つが滅んだそうだ」
「そんな国一つ滅ぼすような奴をどうやって止めるっていうんだ」
「そこで父さんの過去の仕事に繋がる。神獣が神獣を殺すと大幅な経験値が手に入ることは知っているな」
当然。
そしてそれは殺人と同じぐらい厳罰化されている。
「魔獣を止めるために低レアリティ、低レベルの神獣をぶつけても魔獣の餌になるだけだ。そこで各国は国の最高戦力に近いものをそれぞれ〝
「裏切る国は出てこないの?」
「ほぼないだろう。万が一近隣諸国が魔獣に滅ぼされたとなれば、次に狙われるのは自分達の国だからな。それに国一つを滅ぼした魔獣のレベルは凄まじいものになるはず。だから早いうちに叩く必要がある」
なるほど…………。
他の国で発生した場合でも対岸の火事とは思えないということか。
野放しにすればするほど魔獣は人や神獣を殺し、レベルを上げて手が付けられなくなってしまう。
だから他国と連携してでも魔獣を殺す。
各国の最高戦力と言うと、ウチで言うとロートルおじさんのことか?
でもさっき話していたのはトウゴウという人だったよな。
そんな人、俺は聞いたことないけど。
というか父さんの過去の仕事って…………。
「もしかして父さんの仕事ってその…………」
「魔獣掃除人だ」
やっぱり。
つまり……父さんは国の最高戦力の一人だった……ということか?
冒険者と傭兵のような仕事、騎士団団長であるロートルおじさんと知り合い。
なるほど辻褄が合う。
そういうことだったのか……。
「これがアルに秘密にしていたことだ。魔獣掃除人という役職もまた秘匿事項だったから話すことができなかった」
「じゃあ父さんのその怪我は……」
「……15年前、魔獣との戦いで失ったものだ」
15年前……。
俺が戦争孤児として父さんに拾われた時。
嫌でも理解してしまう。
俺の本当の両親が死んだのは戦争のせいじゃない。
魔獣に殺されたんだ。
「嘘をついていたっていうのは、そのこと?」
「そのこともあるが、もう一つはコレだ」
父さんは手元にカードを召喚させた。
ありえない。
神獣が死んだらカードも召喚させることはできなくなるはずだ。
なのに父さんの手元にはカードがある。
それはつまり。
「私の神獣は死んではいない」
「…………そんなことまで秘密にする必要なんてあるの」
俺は自分でもビックリするぐらい冷たい声が出た。
父さんの神獣が生きていたことぐらい「へーそうなんだ」ぐらいで済ませることができるのに、ずっと嘘をつかれていたことが思った以上にショックだったみたいだ。
「いや……生きているといったが、実際には顕現することは難しい」
「それはどういう……?」
「15年前の戦いで父さんの神獣は瀕死の致命傷を負った。魔獣の経験値にならないようギリギリのところで収納することができたが、15年経った今でも神獣の傷は癒えていない。もし顕現した場合は私の心の力を食い尽くし、最悪私は死に至るだろう。だから実際には顕現することはできなかったんだ」
だからあながち嘘ではなかったと。
俺は父さんにカードを見せてもらった。
───────────────
【
○攻撃力4600
○防御力4200
○素早さ5000
○特殊能力4000
スキル:電光石火、
───────────────
見たことがないステータスだった。
五ツ星のレアリティにロートルおじさんに次ぐレベルの高さ。
15年間顕現させていないということは、15年前からこのレベルだったということだ。
父さんが神獣について詳しかったのも頷ける強さだ。
「これが父さんの
そりゃ五ツ星の神獣なんて誇らしいに決まってるさ。
「でも結局のところ、父さんに魔獣と戦う力は無いじゃないか。いくら剣が使えると言っても片手だし、生きている神獣も顕現できないんじゃ……」
父さんは少し悲しそうに笑った。
それで俺は察した。
察してしまった。
国が父さんに何をさせるのかを。
あの黒ずくめの男は何を要請しにきたのかを。
「父さん……まさか……!」
「ああ。国王は私に命を賭して魔獣と戦えと言っているんだ」
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