出動命令

 家に帰った俺は来訪している人がいることに気が付いた。

 きっと父さんに用事があって来たのだろう。

 なにやら深刻な声色で話をしている。

 俺は聞き耳を立てるようにそっと部屋に近づいた。

 部屋の中を覗くと全身を黒ずくめに着込んでいる男の姿が見えた。


「───という事情のため国王陛下から出動要請が発令されました。現在、事態は急を要する状況となっています」


 国王陛下から直接父さんに要請?

 一体なんのことだ?


「私は見ての通り、既に引退した身だ。数年前にヴァイパーが死んだと聞いたが、現職の魔獣掃除人ビーストスイーパーはいるのだろう?」

「…………既に魔獣掃除人トウゴウは返り討ちに遭い、殺されました」

「馬鹿な」


 ……魔獣掃除人ビーストスイーパー

 聞いたことのない名前だ。

 それに殺されただって?なんて物騒な話をしているんだ。


「確認していた者の連絡によれば、かなりの善戦を繰り広げていたものの、あと一歩のところ及ばず神獣を殺され、使い手であるトウゴウ殿もその後…………」

「……魔獣のレアリティは?」

「二ツ星です。しかし、トウゴウ殿が殺されたことによりレベルが上がり、さらにステータスも脅威的な数値となっています」


 父さんは唸るようにしてしばらく言葉を発さなかった。


 これはきっと俺の知らない父さんの過去の仕事に影響していることだ。

 俺が聞いていいような話ではないのかもしれない。


「魔獣相手に半端な数で対抗するのも愚策……それはルーカス殿も良く理解しているかと」

「ああ、良く分かっているよ」

「トウゴウ殿が亡くなった今、ロートル騎士団長が唯一勝てる見込みのある人物となります」

「だが国力の象徴とも言えるロートルは下手に動けず、万が一敗北した場合は……」

「国が滅びることを意味します」


 国が……滅びる?

 魔獣っていうのはそれほどまでに危険なものなのか?

 なんでそんな大事なことをみんなに知らせないんだ?


「ルーカス殿の神獣がどんな状態であるかは聞き及んでいます。しかし、それでも国王陛下はルーカス殿の働きに期待しています。もしも今回の件を見事処理できたのであれば…………息子であるアルバス君の配属先にも一考すると」

「アルをダシにする気か?」


 父さんの声に少し怒気が混ざった。


「まさか。正当な報酬としての話です。アルバス君の神獣の結果については、国王陛下の耳にも聞き及んでいるゆえ。もちろん希望するならば別の報酬でも構いません」

「…………」


 俺の…………配属先?

 それはつまり、俺が希望する騎士団への道ということか?

 それを国王陛下が直々に話を通してくれると?


 ……なんだその都合のいい話は。

 そりゃ騎士団に入れるなんて聞いたら、今までの俺なら跳んで喜んだだろうよ。

 でも話を聞く限り、ロートルおじさんの次に強かった人を殺した相手を父さんがするってことだろ?

 父さんにそんな危険なことをさせてまで、俺は騎士団に入りたいわけじゃない。

 俺の相棒バディが0ツ星だからって馬鹿にするなよ。


「……父さん」

「っ!アル、帰っていたのか!?」

「おっと……良くない話を聞かれましたかね」

「俺のためなんかに危険を犯す必要は無いよ。俺は自分の意思で進路を決めたんだ」


 黒服の男に一瞥をくれるようにして俺は父さんに話した。


「俺の神獣じゃ騎士団に入れてもらえたとしてもお荷物になるだけさ。みんながご存知の通りにね」

「騎士団とは言っていないのだがね。それに君は少し勘違いをしている。出動要請と言っているが、これは国王陛下からの実質的な勅命だ。ルーカス殿は既に組織の枠からは抜けているため要請というていを取ってはいるが。元々ルーカス殿に拒否権はないのさ」

「父さんの姿を見て本当にそんなこと言っているのか!?左目と左腕だけじゃなく、神獣も失っているんだぞ!?それなのにそんな危険な奴と戦わせるなんてどうかしている!!」

「君は事の重大さを認識していない。それにルーカス殿の神獣は──────」

「少し息子と話す時間をくれないか。ここまで知ってしまった以上、私の知っていることを話す必要がある」


 父さんが黒服の話を遮った。


 父さんの知っていることというのは昔の仕事のことだろうか。


「……あまり時間はありませんが、まだ連絡が来ないようですから大丈夫でしょう。万が一ということもありますからね、伝えることは伝えておいた方がいいと私も思います。しかしアルバス君、一度話を聞いてしまった以上、後には引けなくなるよ」


 言っていることが分からないが、とりあえず俺は頷いておいた。

 黒服の男は家から一度出て行った。

 残された俺は父さんと目が合い、促されるようにして父さんの前に座った。

 父さんは一息つくと、重々しく口を開いた。

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