冒険者と傭兵
神獣の召喚から数日後、俺は冒険者になるべく必要なものを揃えようと準備していた。
冒険者の生業としては様々な業種が存在する。
薬品や武器や防具を作成するために必要な素材を収集する者。
居住区や郊外に出現する魔物を狩る仕事をする者。
秘宝が眠るダンジョンや未開の地を踏破し、開拓の先駆けを作る者。
この他にもいくつか冒険者と呼ばれる業種があるが、そのどれもが確定した身分を持つわけではない。
冒険者と呼ばれることはあるが、定職として冒険者という身分が存在するわけではないのだ。
その代わりとして冒険者は登録行為などの手順は存在せず、誰でも自由に行うことができるのが利点である。
それを管理しているのは国によって様々だが、ここアトラス王国及び管轄の周辺町村では派遣型傭兵団『ディスパーズ』が依頼の仲介を管理している。
ここへ行けば素材や秘宝といったものの取り引きも行なってもらえるというわけだ。
そしてこの国にいる冒険者の多くは傭兵団に所属しているケースが多い。
今でこそ戦争はあまり起きていないが、少し前には近隣諸国との領土問題で幾度か小競り合いが起きていた。
その際に駆り出されるのは国の治安を維持するための憲兵と選りすぐりのエリート集団である騎士団は当然だが、それだけでは人が足りない。
本国の守りや治安を維持するためにも必要最低限の人数は残して置かなければならない。
そこで必要とされたのが傭兵の存在だ。
国からの要請で支援を受け、登録している傭兵に募集を掛けて戦地に赴かせるというものである。
国としても本国の守りを手厚くし、裏切る恐れのある傭兵を戦地で戦わせることで寝首を掻かれる心配もない。
さらに傭兵は冒険者と違い身分がしっかりとしている。仕事の無い人はとりあえず傭兵に登録しておき、戦争が無い時には冒険者として稼ぎをする。
なのでこの国にいるいわゆる冒険者と呼ばれる人の多くは傭兵団に所属している人が多いのだ。
しかしながらもちろんデメリットはある。
傭兵団から招集がかかった時は必ず参加しなければならない。
もしも招集に応じなかった場合は傭兵としての身分を剥奪され、それどころか傭兵団の管理する建物の出入りを禁止される。
つまり事実上この国での冒険者活動も出来なくなるということだ。
万が一、長期間国から離れる場合は事前に申請をしておかなければならない。
中々に面倒くさいのである。
そんなわけで俺は冒険者として活動はするが、傭兵として登録するつもりはない。
生活できるかどうかは自分次第になるが自分の選んだ道だ、後悔はするまい。
買い出しで露店街を散策していると偶然にもリオナに出会った。
それに嫌な奴も。
「おや?おやおやおや?そこにいるのは落ちこぼれが確定してしまったトリガー君じゃないか!調子はどうだい!?」
「お前に会うまでは最高だったよ」
ウザさに拍車が掛かったエルロンドだ。
正直会いたくはなかったな。
「アルも買い物?」
「まぁな。そっちは二人で何を……」
「僕達はホラ、騎士団入団前だからぁ?色々揃えるものがあるんだよなぁ。セオフィリオ学園からは僕達しか入団しないわけだし、せっかくということで」
そう言ってリオナの肩を引き寄せるエルロンドを見て、心の底からムカムカとした感情が上がってくるようだった。
「やめてよエルロンド。あなたが勝手に付いてきただけでしょ」
そう言ってリオナは肩に置かれていたエルロンドの手をはたいた。
「ふっ、照れ隠しする必要なんかないのにな」
「はぁ……。アルはいつ頃出て行く予定なの?」
「早くても来週には」
「行く前、必ず私に連絡してね。お見送りしたいから」
「ああ」
「お前に行くところなんてあるのか?トリガー。家畜小屋とかがお似合いなんじゃないか?」
「そういうことならお前の屋敷に行かせてもらうよ」
「どういう意味だ!!」
どういう意味も何もそういう意味だ。
「僕は騎士団で神獣を最強になるまでレベルアップさせてやる。いくらトリガーが僕より剣術が出来るからといっても、神獣一つで状況は一変するんだよ」
「はいはい、分かった分かった」
「適当に流してんじゃねーよ!!」
とはいえエルロンドの言うことは正しい。
この世界では神獣が全て。
その点で言えば騎士団は神獣を育てるのに最も適した環境だ。
憲兵も騎士団と同じ国に仕える兵士という区分だが、国内の治安を守るために活動するため神獣の出番はさほど多くはない。
その点騎士団は神獣に選ばれしエリート集団で、国の最強の矛でもあり盾でもある。
なので有事の際に備えて普段から神獣をレベルアップさせるための活動を行う。
時には魔物狩りに、時には団員同士での模擬戦、時には遠征。
神獣を主軸に置いた生活が始まる。
「エルロンド、お前も騎士の一員になったならそれに見合った言動をしろよ」
「それはお前もだろトリガー。騎士の僕にタメ口か?」
「はいはいすいませんでしたー」
そう言って俺はこれ以上絡まれるのも面倒なので引き返すことにした。
「絶対連絡してねアル!」
リオナの声にひらひらと手を振りながら俺は家へと帰ることにした。
本来であれば、隣に立っていたのは俺のはずなのに。
あんな奴に隣を取られるなんて、見てらんないよ。
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