第22話 紅月-22


 ―――甲子園に行ったんだよね。

 うん。二年のときにね。結局、一年のときもお兄ちゃんとは公式戦では戦えなくて、練習試合だけだったから、目標を甲子園に変えたの。一年の夏の大会で結構いいとこまで行ったし、上岡から上手い後輩が泉央に入ってくれるって言ってくれたから、これなら行けるんじゃないかって思って、みんなで、目指せ甲子園!


 ―――いいなぁ~。俺も行きたいよ。

 甲子園行った時に、こんな話があったのよ。

 あたしをマネージャーとしてベンチに入れてやろう、ってみんなで相談してくれたの。知ってる?マネージャーでも女はベンチに入れないのよ。それをなんとかしてやろうって、高野連に交渉してくれたのよ。…結局ダメだったけどね。

 でも、嬉しかったわ。みんなが、あたしを仲間だと認めてくれているんだ、ってわかったから。スタンドから見てても自分がグラウンドにいるように感じたわ。


 ―――優勝できなかったの?

 それは無理だったわ。一回戦勝っただけ。それだけでも、大したものなんだけどね。それからは、何回か甲子園に出てるでしょ。


 ―――最近は、常連みたいだよね。俺も、成績が良くなんないんなら、あそこへ行こうかなぁ。



 でも、甲子園に出てから、目標がなくなったような気がしたの……。


 ―――どうして?二年のときだったら、次の年もあるじゃない?

 ん…、あたしは、どうせ出れないんだし、目標のお兄ちゃんも、もういないし…、って思ったらなんとなくやる気がなくなってね。あたし、ちょっと調子に乗って不良相手にいきがってたの。


 ―――それって、ファントム・レディ?

 まぁね。あれだけ、隠しておいて、いまさらというのが正直なとこだけど、しばらく学校さぼってね、あちこち旅してたの。


 ―――旅?

 ん。ぶらぶらと、日本全国あちこち回って、それで気の向いた駅で降りて、色んな街を歩いて、適当に学校にもぐり込んで、野球やったりケンカしたり。

 ふらふらしてたのよ、信じられる?


 ―――へぇ~、知らなかった。

 そんなことしてたから、未来ちゃんのやってることが他人事に思えなかったのよねぇ。ま、あの子は目的があったけど。

 でも、その間よ。二代目ファントム・レディの名前が知れ渡ったのは。

 あちこちで好き勝手やって、去り際にファントム・レディでした、なんて、安物のドラマみたいなことしててね。そんなことしてるうちに、全国的に名前が売れちゃったの。

 初代みたいに全国制覇しないのか、と訊かれたこともあったわ。でも、そんなの面白いとは思わなかった。ただ、色んな人と会って、好きなことしてるのが、楽しかった。勝手気ままな、無為なことが、面白いと思う時代だったのね。


 ―――俺も面白いと思うよ、そういうのって。

 楽しかったわ。ホントに。

 でも、帰ってきたら、ファントム・レディの名前が有名になっててね、由起子さん、活躍してたんだね、なんて言われて、あらびっくり。


 ―――驚いたって、先生が自分で広めたんだろ。

 まぁね。

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