第21話 紅月-21

 あたしも、甲子園行きたいな、なんて思ってた。だから、高校進学するときも、色々探したの。それとやっぱり、お兄ちゃんの行った旭学園じゃないところ、ってのいうのが条件。


 ―――先生、泉央学園だったよね。

 そう。あの頃新設でね、まだ高校野球じゃあ無名だったんだけど、そういうとこでチャレンジしてみるのもいいかなって思って、泉央にしたの。先輩の上手な人、川村さんとか、中田さんが進学したのも理由の一つだったんだけど。


 ―――でも、ずっとファントム・レディでいたの?

 仕方ないのよ。あたしが戦いたくなくても、向こうが挑戦してくるの。でも、高校進学と一緒に辞めるつもりだった…。


 ―――やっぱり、暴力事件とか?

 そう。高野連がうるさいでしょ。ひとりが事件起こしたら、連体責任とか言って、一年間の対外試合禁止とか。みんなに迷惑掛けたくないから、もうやらないことにしたの。でも……。


 ―――でも、やらざるを得ない…。

 ん。伏せておいたつもりだったんだけど、やっぱりつきまとって来るのよね。特に、暴族。目立ちたいだけの連中だから、大して強くもないのにバイクでグラウンドまで来て、俺と戦え、なんてわめくの。仕方ないから、柔道部の部室借りて、異種格闘技戦ということで、なんとかごまかしたの。


 ―――異種格闘技戦とはうまくやったもんだなぁ。

 あたし、柔道も空手も段を取ってたから、まぁ適当にごまかしながら、柔道風の技で投げ飛ばしたり、空手風の技で叩きのめしたり。でも、結局は、チンピラみたいなことやってただけなんだよね。


 ―――相手のせいなんだろ。先生はやめたがってるのに。

 そうでもなかったのよね。あたしも、楽しんでたみたい。だって、強いなって思う相手はほとんどいなかったんだもん。いまでも、イチロー君と腕相撲しても絶対負けないわ。そんなに腕力のついたあたしに、見かけだけ見て挑戦してくるのよ。なんだ、どんないかつい女かと思ったら俺よりチビじゃねえか、なんてね。でも、そういう連中を簡単に放り投げることもできたわ。それが、面白かったのかな。

 強い人はね、よけいなケンカはしないの。あっちこっちのリーダー格の人と友好協定結んでね、お互い無益な争いはやめましょうっていうことで、平和的だったわ。


 ―――じゃあ、野球の方に集中できたの?

 まぁ、新設校だったから、三年生が一期生でね、おかしな伝統もないし、上下関係も緩やかだし、あたしみたいな女が一緒に練習してても許されてたのよね。それで、バッティングピッチャーなんかやってて、後は球拾いと、練習試合の相手くらい。それでも、みんなの役に立てるっていうことが楽しかったわ。

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