第46話

午後十時。


指定された時間。僕達は、全員ネムの部屋に集まっていた。夕飯時に突然、ネムが「今夜、みんなで怪談話をしよう!」 と叫び、本当にそれが実行されることになってしまった。


今夜集まったメンバーは、僕とネム、鮎貝とバンバとララの五人。


部屋は、薄暗く。雰囲気作りだけは、それっぽくて。部屋の中央に赤い蝋燭が一本だけ置かれていた。その蝋燭を囲むようにして、僕達は座った。


スーツに着替えたネムが、メンバーが集まったことを確認。


「本日は、お集まり頂き、ありがとうございます。私、司会進行役のネムです。皆様からは今夜、とびきり怖い話を聞かせてもらいます。……今から、とっーーても楽しみです!」


「いや、あの…さ。そもそもどうしてこの寒い季節に怪談話を? 夏とかじゃない? 普通」


不満を漏らす僕をチラッと見たネムは、ケラケラと機械じみた声で笑い始めた。


「こわっ!! なんだ、その笑い。どこから、声出してんだよ!?」


「ケラケラ……ケ…。じゃあ……早速、鮎貝さんからお願いします。順番に時計回りに話していきましょう。鮎貝さんの次は、正義さんですね」


「さっき言われてさ、怖い話なんて思い付かないって………」


頭を悩ます僕の横で、鮎貝は静かに語り始めた。


「これは以前、私の従兄弟から聞いたんですが……。今からお話するのは、その従兄弟の女友達の実体験です」




【語り手: 鮎貝】



ーーー飼っていた犬が、死んでしまった。


唯一、私の支えだったのに。



死を受け入れられない私は、以前怪しいサイトで見た『蘇り』を試してみた。



まず。



夜中の2時に家の玄関に、死んだ愛犬を置く。犬の血と飼い主である私の血を良く混ぜ、砂に吸わせる。その砂を大きな袋に入れる。砂袋は、犬の隣に置いた。



1日目は、これで終わり。



朝、起きて見に行くとなぜか犬は消えていて。でも砂袋は、そのままの形で放置されていた。


その砂袋を庭に埋め、夜まで待つ。



次の日の夜中2時。埋めた砂袋を取り出し、また家の玄関前に置く。



「…………」



少し、重くなった?

気のせいかな。


でもーーー。




埋めて、出して、埋めて、出して。何日もそれを繰り返していたら、1週間目には、砂袋は明らかに重く、ずっしりとしてきた。運ぶ度に汗が出た。



もうすぐ………。


もうすぐ会えるからね。



砂袋をいつものように玄関に置き、疲れていた私は二階の自分の部屋で寝ていた。



すると、甘い声が微かに聞こえた。

私を呼ぶ懐かしい声。飛び起きると玄関扉をゆっくりと開けた。



「あっ!?」



砂袋が、グニグニと動いている。しかも、あの声が聞こえた。私に甘えてくる時の可愛い犬の声。




【 袋が破れるまで、絶対に袋を開けてはいけない 】




その注意を私は無視した。我慢が出来なかった。袋を開けると、2つ。赤目が見えて。


そして、



してーーーーー。




不快な目覚まし時計の音で目を覚ました。

ベッドから起き上がると自分の体じゃないみたいに重く、鏡を見るまでもなく、異変に気づいた。




お腹が、膨れていた。



「えっ!?」



なんで。



なんでよっ!!!!



もう一度だけ会いたかっただけなのに。




な…ん…で……………。



私の膨れたお腹から、あの甘えた愛犬の声がした。

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