第43話
目を覚ますと、僕のおでこに黒魔導師ナナのカードが熱冷ましのようにピタッと貼り付いていた。剥がそうとした手を良く見ると、手のひらに可愛い文字で
『また、いっぱいいっぱい遊ぼうね!! パパ』
と書かれていた。その無邪気さに苦笑い。体を起こし、リビングに行くとエプロン姿のネムがいた。
「あっ! 起きた。もう昼の二時だよ。寝坊助さんだね~。くすぐっても全然起きないからさぁ、今から顔に熱々タオル乗せようと思ってたのに……。そっか……。起きちゃったのかぁ……。残念」
「もっと普通に起こしてくれ」
でも確かに長い間、夢を見ていた気がする。とてもリアルな夢をーーー。
先ほどから、なぜかネムのことが可愛くて……愛おしくて仕方ない。
病気かな?
「なんだよ、その微妙な顔………。もうすぐ、お昼の準備が出来るからテーブルに座って待ってて」
「うん。ところで、鮎貝は?」
「バンバさんとララと一緒に闇市に出かけたよ。面白い品の裏取引があるみたいで、見に行かない? って、誘われてさ。私も本当は行きたかったんだけど、キミの面倒見なきゃいけなかったから………」
残念そうに肩を落とした。
「ふ~ん。まぁ……この後、面倒なことにならなければ何でもいいけどさ」
「暇なら、このお皿運んでくれない? 割らないでね」
「分かった」
広いテーブルなのに僕の隣に座ったネムは、食事中、常にニコニコ上機嫌だった。ネムの尻尾が背中やら太股やらサワサワ触ってきて、くすぐったかった。
「えっ、ど、どうした?」
「久しぶりにダーリンを独り占め出来るから嬉しくて……。体も熱いし……もしかして、発情期かな?」
「発作の前兆……じゃないよな。ちゃんと薬飲んでね」
「発作じゃないよ! 全然違うっ!!」
拗ねてしまった。僕を親の仇だと言わんばかりに睨みつける。しばらくして、ネムの様子を窺うと、部屋の奥で胡坐をかいて漫画を見ていた。
「あの………さっきのは心配で聞いただけだよ」
「分かってる。そんなこと」
ネムの横顔を見た時。
今まで忘れていたーーー。
忘れちゃいけないネムとの記憶が、フワッと一瞬、心の片隅をつついた。すぐにその感覚は消え、思い出すことすら出来ない。
ただ、その余韻。微熱はまだ残っていて。そのせいなのか、気づいたらネムの柔らかい頬にキスをしていた。
「ダー?」
「その漫画のシリーズ、僕にも見せてよ! この世界ってさ、やたら漫画のレベルだけは高いよな」
「…………ぅん…」
無言で体を寄せたネムと二人、月が部屋を照らすまで、漫画を読み耽った。
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