第35話
タワーに戻り、自室に行くと部屋がこれ以上にないほど荒らされていた。
犯人が何を探していたのかはすぐに分かった。金目のものには目もくれず、棚からカードだけを奪っていた。
「…………はぁ…」
あんなに触る事さえ敬遠していたのに……。カードがないと分かると、心の一部を引き裂かれたような消失感。
ネムと鮎貝の部屋は、無事だった。
それだけでも良しとするべきだ。
「ダーリン」
「前田さん……」
二人とも言葉に詰まっていた。それほど今の僕は、ショックを受けた顔をしているのか。
「大丈夫だよ。とりあえず、今夜はリビングのソファーで寝るよ」
「じゃあさ、一緒に寝ない? また盗っ人が来るかもしれないし……一人だと恐いから……」
その夜。僕は、ネムと鮎貝と一緒に寝た。僕の左右で丸まる二人は、僕の手をそれぞれ優しく握ってくれた。
「鮎ちゃんさぁ~。早く寝てくれない? ダーリンとチュッチュッするんだからさ」
「ネムちゃんこそ、ペチャクチャ喋ってないで早く寝てよ。私も個人的に前田さんと話したいことあるから……」
「は? 話したいことって何よ。意味分かんない。この、巨乳お化け」
「さっさと寝なよ。…………貧乳猫助」
僕の体の上で、二人は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「や、や、止めなって!! 何、してんだよ」
二人の体から漂う甘い香りとすべすべした肌の柔らかさに頭が痺れ、クラクラした。
「「 ニヤニヤしてんじゃねぇ!! 」」
二人に頬っぺたをつねられた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ちょうど三日後ーーー。
僕は、33階のフロアマスターと勝負をすることになった。背の低い男が、女奴隷の背中を椅子代わりにして、足を組んで座っていた。全身真っ黒な服、太っているのもあり、おはぎのように見えた。そんな、おはぎ男と命を賭けた勝負をする。
「使用枚数は、三枚までとします。時間は無制限です。でも眠くなっちゃうので、チンタラしないで下さいね。どちらかのカードが、すべて破壊された時点で決着です。それではこれより、勝負を開始します。両者、位置についてください」
カジュアルなスキニーパンツに黒のパーカーを着た茶髪の女が、今回の審判役らしい。ハルミじゃないのを少し残念に思っている自分がいた。
ナミダの時とは違い、今度はカード使用枚数が三枚。対戦相手が、カードを一枚しか持っていない僕を見て、ケラケラ笑っているのを見た瞬間、部屋を荒らしてカードを奪ったのがコイツの仕業だと分かった。
「僕が勝ったら、カードを全部返してもらうから。土下座つきでな」
「ハハハハハ。前田ちゃんは、ほんとに甘ちゃんなんだね~。このタワーではさぁ、奪われる方が悪いんだよ。その時、殺されなかっただけ良かったじゃん」
盗んだことを悪いとか全く思っていない。ナミダに負けず劣らずの糞野郎だった。
「お前はあの夜、僕からカードをすべて奪えなかった。それと、あれから三日が経過した。つまり、何が言いたいかっていうと………。お前、運ないんじゃね? ってこと」
「ふざけたこと、言いやがって!! その口、裂いてやる。そんな糞カード一枚で俺様に勝てるわけねぇだろうが! お前に地獄を見せてやるよ。この最強カードでな」
フィールドである荒野。そこに召喚される凶悪なモンスター。
怪力魔神ラベリー、死者狂いママタマ。
ビルほどの高さ。巨大なモンスターの間に僕と同じくらいの年齢の男がいた。小さな杖を指揮者のように鼻唄を歌いながら振っていた。魔導師ヤマト。
三枚のカードを召喚したおはぎ男は、自分の首を斬る仕草をして僕に死の宣告をした。
僕は、胸ポケットからカードを取り出した。そして、あの裸足の少女を召喚した。
「また遊んでくれるの? パパ」
「うん。その前に邪魔なコイツら、倒してくれない?」
「分かった。今日は、パパとおままごとしたいなぁ」
少女に襲いかかる、怪力魔神。風神のような速さの打撃だった。
その拳を片手で止めた少女は、木の葉のように舞うと魔神の顔を軽くパンチした。しかし、その破壊力は凄まじく顔面が潰れた魔神は脳ミソを撒き散らしながら、地面に倒れた。
「パパと話してる途中だろ? 邪魔すんじゃねぇよ」
あの死を呼ぶ蝶の群れが、空を覆い始めていた。
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