第34話


チリン、リン。


最近、鮎ちゃんと一緒にアルバイトを始めた。職場は、町で一番人気の食堂だ。お昼時は客が雪崩れ込んできて、目が回る忙しさだった。


「ネムちゃん。お客様の注文を聞いてきて」


「うん。分かった」



タタタタタ………。


「お客様。ご注文はお決まりでしょうか?」


「んっ……と……。このルック鳥のトマトクリーム煮とパン。あと、カリュー酒を頼む」


「はい、畏まりました。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」


「あぁ…………君さぁ、あまり見ない娘だね」


「はい。先週からここで働かせてもらっています」


目の前の不潔な髭モジャモジャ男は、舐めるように私の体を下から見ると、急に手を伸ばし、尻尾とお尻をサワサワ触り始めた。


「可愛いね~。お店終わった後さぁ、二人で飲みに行かない? お金は出すからさ」


「………お客様。当店は、このようなことをするお店ではありません。すみませんが、手を離して下さい」


「フンっ! なんだよ、つまんねぇ獣女だな」


「…………………失礼します」


厨房で料理長に注文を伝えると、鮎ちゃんが慌ててやって来た。


「大丈夫? アイツ……最低だね。イライラする……。あんなの殴ちゃえばいいのに」


「ありがとう。大丈夫だよ。私、もう大人だから。お尻と尻尾、触られたくらいで怒るとかしないから」


「ネムちゃん……。頭からスゴく湯気出てるけど大丈夫?」


…………………………。

………………。

…………。


閉店後、呑気なダーリンが店にやってきた。



ダダダダダァ!!


「いらっしゃいませ!!」


「元気だね……。あのさ、悪いんだけどこの子に何か食べさせてあげてよ」


「誰……?」



僕におんぶされている裸足の少女。遊び疲れ、さらにお腹も減って動けなくなったらしい。


「パパ優しいから、だぁーーい好きぃ!! ってか、あなた達、ぼさっと突っ立ってないで早く料理持ってきなよ。もたもたすんな」


さっき会ったばかりの少女にパパと呼ばれ、かなり気に入られていた。


「ダーリン……ちょっと悪いんだけど、厨房まで来てくれる?」


少女を降ろし、椅子に座らせた。僕は、両手をネムと鮎貝に引っ張られていく。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


十分後、僕は二人に命じられて少女にオムライスを作っていた。

今も仁王立ちの二人に睨まれており、目を合わすことが出来ないでいる。


「はい、出来たよ……。熱いから、ゆっくり食べな」


「わぁー、スゴい! パパは、料理まで出来るんだね。ナナね、将来パパと結婚する。パパも、こんな何も出来ない女どもより、私の方が良いでしょ?」


「前田さん……。悪いんですけど、また厨房まで来てくれますか」


二人に引きずられ、フルボッコ。


しばらくして、やっと立ち上がることが出来、厨房から戻ってみると、少女は跡形もなく消えていた。


「………飽きて、帰ったのか?」


ネムと鮎貝は、着替えを済ませ帰ろうとしていた。


「あっ! ちょっと待って。二人とも。座ってて」


僕は、先程オムライスを作る時に準備していたホットミルクを温め直し、二人が座るテーブルに持って行く。


「疲れただろ? お疲れ様」


二人は、甘い湯気を放つカップを見つめ、ゆっくりと飲み始めた。


「貴重な蜂蜜使っちゃったけど、大丈夫だよな?」


機嫌を直してくれたみたいで、仲良く三人並んで帰った。


少女が食べ終わったオムライスの皿の下。隠すように置かれていたあのカードのことは二人には秘密だ。


ってか、いつ……召喚したんだ?


全く身に覚えがなかった。

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