第36話

脳ミソを撒き散らして倒れた怪力魔神。その亡骸に触れる、これまた巨大な5メートル超の大男ーーー。

死者狂いママタマは、何かを呟き始める。すると、魔神の体がピクピクと動きだし、遂に立ち上がった。


「うわっ! なんだ、コイツ。気持ち悪っ!!」


よく見ると死者狂いの両手から、魔神の体に十本の黒い糸が繋がっている。その糸でマリオネットのように魔神を操っている。息をする暇さえ与えない、先程よりも遥かに速い連続攻撃。その攻撃を少女は…………欠伸をしながらかわしていた。


しばらく、静観していた魔導師が動く。


「はぁ………お前らじゃ、この人は千年経っても倒せない。さっさと失せろ」


魔神と死者狂いの体の隙間を邪魔臭そうにブツブツ文句を言いながら通りすぎる。プライドを傷つけられた大男達は、標的を仲間である魔導師に変更した。


「…………そんなに堕ちたいか?」


持っていた杖を振ると魔神と死者狂いが立っていた場所が、一瞬で底無し沼に変わった。二体は、慌てて沼から這い出ようとしたが時すでに遅く。あっという間に沼に喰われてしまった。


フロアマスターは、せっかく召喚した大事なカードをいきなり二枚も失い、当然この魔導師に激怒した。


「おま、お前っ! せっかくの俺様のカードを無駄にしやがって!! ふざけたことを」


「あなたは僕の主だから、その無礼な物言いも一度は許す。……でも二度目はないよ? 巻き添え食らって死にたくなければ、さっさと離れて、僕が勝つ瞬間を遠くから見ていればいい」


マスターを無視し、力のバランスを見せつけた魔導師は少女の前まで来た。裸足の少女は男を見据え、薄く笑っていた。



「お久しぶりです」


先生ーーーー


「うん。こんな場所で会うなんて奇遇だね~。懐かしいなぁ。当時、問題児だったキミが、今もまだ問題児を貫いてるみたいでとっても安心したよ」


「………先生にだけは、問題児なんて言われたくない。気にくわない生徒や講師を容赦なく殺しまくっていたあなたにはね」


全く話についていけない。いつの間にか、僕の隣に折り畳み椅子が用意されており、ネムと鮎貝がそこにちょこんと座っていた。


「あの生意気な小さい女……黒魔導師のナナだったんだね。激ヤバ女じゃん。ってかさ、メチャクチャ懸賞金高いのに……う~ん…。今の弱っちぃダーリンに召喚出来るキャラじゃないと思うんだけどなぁ」


「僕もそこは、不思議だったんだけどさ。まぁ……ラッキーってことで」


「相手も魔導師なんですよね? 二人の会話の感じだと師弟対決みたいですし、今回は勝てそうですね」


確かに! そんな気がする。


「そんなに上手くいかないと思うなぁ。相手のヤマトさぁ。今じゃ、裏社会で五本の指に入るほどの実力者だよ。あの魔法学園『パンディオン』を半年で卒業。しかも首席だったし。彼」


「鮎貝は、知ってた? パンディオン」


「…………は…ぃ。魔法と言えば、パ、パパ、パンディオン!」


「知らないなら知らないでいいんだよ。別に」


「…………知ってるもん。そういう事言う前田さん、嫌いです」


「二人ともっ! そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ!」


久しぶりに目の前を見ると、そこにはダイヤモンドで出来た光輝く大蛇にぐるぐる巻きにされた少女がいた。


骨が軋む嫌な音がしている。


「っ!!」


咄嗟に声を出そうとした僕を見つめる小さな赤い瞳。その瞳から、何百年も生きた深淵の魔女のような純粋な闇を感じた。


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