第31話
教会に戻り、寝ているネムの冷たい手を握った。発作時の急な体温上昇の後、必ず氷のように彼女の体は冷えきっていた。毛布を二枚追加する。
「行かないで……」
「もうどこにも行かないよ。薬を買ってきたから、後で飲もうな」
「あの薬……くちゃいからイヤ……」
「我が儘言わないの。ちゃんと飲まないとタワーに戻れないだろ? 鮎貝も心配する。一応、買い出しだって嘘の置き手紙は残したけどさ。昼前には、戻らないと」
「薬飲むから、こっち来て……」
厚い布団をめくり、ネムが僕を誘う。
「狭くないか? まぁ……いいけど」
布団の中に入ると、ネムにすごい力で抱きつかれた。まだ完全に変異が収まっていない彼女の爪が背中に食い込み、頭が明滅するような痛みが走った。
「痛いよね。ごめん…なさい…。でもダーリンから離れたくないの……」
「大丈夫だから。そんなこと気にしないで寝な」
「…………エッチ…は?…」
「今度ね」
「一年前から、同じこと言ってるし……。このままじゃ、お婆ちゃんになっちゃうよ」
「僕は熟女も大好きだから、大丈夫」
「………ロリコンで熟女も好きなんて……ほんと、困ったちゃんだ……」
しばらくして、可愛い寝息が隣から聞こえてきた。ネムの小さな指を確認すると、その爪に先程までの凶器のような鋭さはなく、変異もやっと落ち着いたことが分かった。
「はぁ…………」
突然、ネムを襲うあの発作。発作時は、その体が獣のように変異した。一年くらい前から、この病気? 呪い? に苦しめられているネムを救うため、僕は違法な薬を売買している彼の店から定期的に治療薬を手にいれていた。合法ではない為、僕自身、捕まる可能性は高い。
教会の中、壊れた屋根から欠けた月を見た。最後の月見にならないように後悔のない選択をしよう。
静かになった森から、ネムを呼ぶ狼の遠吠えが聞こえた。
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