第29話
目の前の光景があまりにも現実離れしていて、ナミダは呆然と立ち尽くすしかなかった。
「お前……なに…した?」
「さぁ~……なんかしたかなぁ」
凄い勢いでナミダに胸ぐらを掴まれた。今にも殴られそうな勢いだった。
「ご、ごめんって! 言うから、今っ!!」
食い散らかされ、屍となったバムバムに近寄り、着ていたシャツを優しくかけた。
「ありがとう。キミのおかげで勝てそうだよ。子供たちが、キミの意思を継ぐからね」
「子供たち………?」
「バムバムは、身の危険を感じると子孫を残す為に大量の子供をその身から放出するんだ。その蟲たちは、人間に寄生し、ソイツを宿主にして成長するまでその人間を操る。ちなみに、寄生しても悪さはしないよ。傷つけたり、殺したりしない。ただ、操るだけ。しかも数時間でその体を離れるから、寄生されたこと自体、その人間は気づかない」
「寄生蟲か………。お前、砂漠を上手く利用したな………。砂の中に蟲たちを深く潜らせ、移動させて、パペットや奴隷達に近づき寄生した。ふぅ………初めから、本体は捨てるつもりだったか。ヤられたぜ。冷静にモンスターの動きを見てたら、違和感に気付けた。だから、この敗北は俺の油断が招いた結果だ」
今も土下座中のパペットマスター。
今度は、僕がコイツを操る番だ。
「あんたの負けだよ。自分のカードを破壊して、二度と僕達の前に姿を現すな」
「は…ぃ……」
パペットがカードに戻ると、すぐにそのカードはボロボロと壊れ始め、あとには塵一つ残らなかった。カードが完全に消滅した。
カードが破壊したのを確認したハルミは、僕の横に来て祝福してくれた。
「勝者、前田 正義! 現時刻をもって、30階までの支配権をナミダから前田 正義に完全移行することとする。これに反対する者は、私達『ヴァルカン』が直ちに粛清する」
祝いムードの中、自棄糞になったナミダは、懐から出した銃を僕に向けた。しかし、撃つ前にハルミに首を蹴られ、糸の切れた人形のようにその場で倒れ、死亡が確定した。
やっと解放された安堵から、砂の上に横になる。日が落ちかけて、心地よい温かさを背中から感じた。
ネムと鮎貝は抱き合って、この勝利を泣いて喜んでくれた。
「もう……ヒヤヒヤさせないでよ」
「負けたかと思って、私達も死ぬ覚悟をしたんですよ? でも………良かった……ほんとに良かったです」
カードバトルは、これで最後にしたい。本当に、命がいくつあっても足りないから。
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