第19話
食後。ネム達が食器の洗い物をしている間、ズボンのポケットに押し込んでいたあの呪われたカードを取り出し、机に広げた。
短時間ならカードに触れても『運』を吸われることはなかった。一枚のカードを持って、凝視する。これが、とにかくヤバい! 死ぬ。
こんな悪意しかないモノに頼らなきゃいけない事態が、今後発生するかもしれない。また、全身に鳥肌が立った。
「あぁ~~~…………ん?」
鼻に飛び込むココアの香り。先ほどまで僕の首を絞めていた不安が、甘い湯気に溶けていく。
「どうぞ。まだ熱いので気をつけてくださいね」
「鮎貝、ありがとう。はぁ………落ち着くぅ」
「フフ………良かったです」
僕の両隣にネムと鮎貝が座ってきた。良く考えたら……この状況。もしかして、今ってモテ期なの?
「また、ニヤニヤして~。気持ち悪いぞ」
笑顔でネムにオデコを小突かれた。
「………前田さん。それが、さっき仰っていたカードですか?」
「うん。ほらっ、この絵があのゾンビ。今は、カードの中で冬眠しているような感じかな。たぶん……。他にもこんなに種類があるんだ」
「…………男の子が、先生に取り上げられるヤツですね」
「あっ!? ダメだよ、ネム。早く! 捨て………………………あ…れ?」
「何も起こらないじゃん」
確かに何も起こらない。ネムの体からカードへの『運』の移動もない。
「…………つまり、これって僕専用ってこと? おいっ! 角をそんなに強く曲げるなよ」
乱暴にカードを折り曲げようとするネムの凶行を止めさせた。
「そうかもしれませんね。前田さん以外には、ただの紙切れでしかない。フフ……この世界って、ほんとに面白い……」
鮎貝の顔。少し歪んで見えた気がした。まぁ、気のせいだろうけど。
「でもさぁ、このカードに描かれた奴等って相当ヤバいよ。パッと見さぁ、死神のサザン・ダルファンに黒魔導師のナナ・ミント………闇商人、バンバ・オサまでいる。全員、悪魔でも逃げ出すレベルの犯罪者じゃん」
「なんで、そんなに悪人に詳しいんだよ……」
「毎週、懸賞金ランキングをチェックするのが私のルーティンだから………。ダーリンは、コイツら使って世界を滅ぼす気にゃ?」
「そんなわけあるかっ! 平和が一番。戦争反対!! ………ってか、こんな奴ら召喚したら、このタワー破壊されちゃうんじゃね?」
しばらく黙っていた鮎貝が、そっと呟いた。
「もしかしたら、このカードの送り主は、それを望んでいるんじゃないですか? 前田さんに全てを壊してもらいたいんだと思います。タワーを壊して、一度更地にしないと新世界は作れませんから」
このタワー、ユラを含めた100階以上のマスターと戦う場合、僕の『運』だけじゃ瞬殺される。絶対量が違い過ぎる。
久しぶりにアレを始めないとだめだな!
「ちっちゃい声で何言ってんの? え、ど、どこ見てる?」
「目が、充血して……額に血管も浮き出てて………こわ…ぃ……」
来るなら、来い!!
このカードを使って、全員返り討ちにしてやる。毒を以て毒を制す!!
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