第15話

朝起きると、明らかに布団が膨れていて、心地よい温もりを感じた。


ネムが、本当の猫のように丸まって僕にくっついて寝ていた。ピクピクと動く猫耳。フワフワした尻尾が、太ももをくすぐる。


「……ネム?」


昔、可愛がっていた猫を思いだし、気づいたらネムの小さな頭を撫でていた。


あの猫は、今どうしてるかな……。


無事ならいいんだけど。優しい飼い主に拾われて、幸せに暮らしていることを祈るばかり。


「……ダーリンは、鮎ちゃん好き?」


小さな声が、布団の中から聞こえた。


「ここに来る前は、好きだった。普通の女にはない不思議な魅力があってさ、そこに惹かれてた」


「……………ひぐっ……う…ぅ…」


丸い猫団子が、小刻みに震えだした。


「でも今は、分からなくなってる。この狂った世界のせいで、好きとか考えられる状況じゃないしさ」


「…………私にも…まだチャンスある?」


「ねぇ、ネム……。僕のことなんか忘れてさ、違う人を見つけた方が良いよ。その方が幸せになれるから。ネムは、可愛いからすぐに見つかるよ」


足を襲う激痛。

ネムに思い切り、ふくらはぎを噛まれた。


「いっ、痛タタタタタタッ!!! 痛いって!!」


「………私には、お前しか…いない…の…に」


僕を正面から見つめるネムは、涙を流していた。


「ごめ…ん……。そんなつもりで言ったんじゃなくて………ネムが…大事だから……その……」


これが、恋愛感情なのか正直分からなかったが、ネムのことを無性に愛おしくなった僕は、自分の胸に抱き寄せていた。


「僕が、このタワーのマスターを全滅させたら、答えを出すよ。それまで待ってて」


「……………遠回しに断ってんじゃねぇよ」


「い、いやっ! そういうわけじゃなくて」


僕の胸を小突いたネムは、ピョンとベッドから飛び降りた。その笑顔に安心した。


「早く、ご飯にしようよ。もう、腹ペコ~」


「うん。今、準備するよ。鮎貝を起こして来て」


「はぁい」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


朝食を済ませ、優雅にくつろいでいた時ーーーーー。


突然のブザー音。不吉の前兆。仕方なく、一階のタワー入口のゲートを開けると、警備責任者のハルミが立っていた。相変わらず、背が高くモデルのようだった。


「100階のマスター、ユラ様からのプレゼントです。お受け取り下さい」


目の前に広がるプレゼントの山。箱、箱、箱だらけ。その中には、赤いリボンで胸と股だけ隠した金髪美女までいて、唇を舐めながら僕を誘っていた。




…………やり過ぎ。

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