第14話
私が、ただの猫だった頃ーーー。
私の隣には、いつも彼がいた。
毎晩。彼は、静かに2階の小窓を開けてくれて私を室内に招き入れてくれる。
そして、いつものようにご飯をくれて、ご飯を食べたら、私の汚れた体を温かいタオルで拭いてくれた。
「ごめん……。叔母さんは、超猫嫌いだからさ、この家では飼えないんだよ」
この人間は、今日も私に謝った。
今までたくさんの人間を見てきた。良い人間も悪い人間もたくさんーーー。
でも、この男は私にとって特別な人間だった。
「んっ!………はなみじゅ…が……。はっ、はっ、ぶゅっぐしょんっっっ!! あ~~じゅるじゅる」
箱が空になるほどティッシュを使い、鼻血が出るほど鼻を拭いた。それでも彼は私から少しも離れようとしない。
「アレルギーの、あの薬……全然効かないな……。なんだよ、高かったのに」
彼はベッドの布団をめくり、私を手招きした。私は、今日も彼の隣で眠る。
優しくて、安心する匂い。大好きな匂い。…………朝が来なければ、いいのにな。
いつものように屋根に飛び乗り、彼の部屋の前まで行く。でもその日、部屋は真っ暗で、彼の姿はなかった。
次の日も、また次の日も、またまた次の日ーーー。
……………………。
……………。
………。
彼は、いなくなってしまった。
他の人間の様子から、彼が死んだことが分かった。彼がいない世界は、色のない世界で。これ以上、私に生きる意味などなく。私は、躊躇わず彼の後を追った。
目を覚ますと、この狂った異世界にいて、私は猫耳女になっていた。でもね、そんなことはどうでもいいんだ。
だって、また大好きなアイツに会えたんだから。
「あの………すみません。悪いんだけど、この世界のこと、少し教えてくれない? 全く状況が掴めなくて………。ちなみにそれって、猫のコスプレ? だよな」
「教えてもいいけど………。一つだけ約束して」
「約束? あまり無茶じゃなきゃいいよ」
「……………もう……二度…と……」
『私の前からいなくならないで』
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