第11話
結局さ、僕は誰も幸せに出来ないし、幸せにする資格もない。呪われたこの力がある限りーー。
ある朝、胸騒ぎがして飛び起きた。ネムと鮎貝の部屋は無人で、ひんやり冷たく、長時間だれもいなかったことが嫌でも分かった。
幽鬼のようにフラフラとリビングへ向かう。二十人くらい座れそうな長いテーブルの上に凶悪なナイフが机上に深く深く突き刺さっていた。
「……………」
ネムと鮎貝が何者かに誘拐された。ナイフの横にメモがあり、その内容から僕の存在が気に入らない連中の仕業だと分かった。階数で言うと12階。
靴も履かず、裸足で走った。
余計な事が頭に浮かぶ前に足を動かした。扉を蹴破り、目に入った輩は、片っ端から『運』を奪って殺した。男も女も。
急に………走りながら涙が出てきて………。
止まらない汗と涙。速く走れないこの足。二人を守れなかった情けない自分。
憎くて憎くてーーーーー。
自分で自分を殺してやりたかった。
目的の場所。12階は、他の階と違い、一番広く豪華な造りで出来ており、宮殿のようだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ダーリン………。
ごめんなさい。
子供のような泣き声に油断して、扉を開けてしまった。騙された。
だから、こんな最悪なことになってしまったのは全て私のせい。
今も手足が痺れ、意識ははっきりしているのに身動き一つとれない。服を強引に脱がされ、手術台に裸で乗せられた私達は、白衣を着た小太りの男に切り刻まれようとしていた。私の隣で寝ている鮎ちゃんと目があった。言葉を発せない口を動かし、私に何度も謝っていた。
「今からオペを開始する。そうだなぁ。まずは、心臓の動きを確認するとしよう」
男は私の胸に脂ぎった顔を近づけ、耳をぴったりとくっつけながらニタニタ笑い、私の鼓動音を聞いていた。
「うんうん。正常だぁ~」
こんな男に死ぬまで弄ばれるのか。今まで、どんなに苦しくても歯を食いしばって乗り越えてきた。
でも………もうダメかもしれない。
鮎ちゃんは、震える左手を私にのばす。私も右手をのばし、お互いの指先が少し触れた。
コンコンコンッ!
どこからか、部屋をノックする音。
コンコンコン、コンコンコンッ!!
「だぁあ~、あ~誰だよっ! 今からオペなのによーー!!」
男はドスドスと不機嫌全開で足早に去ると、なぜかそれ以降、戻って来ることはなかった。
代わりに違う足音がした。その足音を聞いた瞬間。私は、私達は。
「さっ。帰るよ」
ダーリンが用意した解毒剤を注射するとすぐに体が自由になった。
私と鮎ちゃんは、思い切りダーリンに抱きついた。お互い裸だったけど、少しも気にならなかった。
もう……離れたくない…。この人から。
服を着た私達は、裏口から外階段に出た。ダーリンは、まだ残っている仕事があるみたいで後から追いかけると笑いながら言っていた。
長い螺旋階段を降りながら。
「わたし………。やっぱり、アイツが好き」
「……私も好き…です。前田さんのこと……」
「やっぱりかぁ~。はぁあ~~」
「ライバルだね」
「強敵過ぎて、まるで勝てる気しねぇ……」
綺麗な月夜。その夜風に微かに混じる、不快な血の臭い。
「っ!?」
「…………どうしたの?」
「なんでもない。早く行こっ!」
それからは、お互い無言だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます