第10話

夜。風呂上がりの二人に自分の秘密を打ち明けた。勘の良いネムは、すでに僕が普通の人間ではないと気づいてたみたいだ。


「元マジシャンでしょ? 何となくそんな気がしてたの………。でも大丈夫。気にしないで」


頭をポンポン、優しく叩かれた。


「………全然違うし。………昔から『運』がさ、形として見えるんだ。見えるだけじゃなく、他人から奪うことも自分の体に貯めることも出来る。この呪われた力を使ってさ、使者や前のフロアマスターの女にも勝てたわけ」


「それって、つまり宝くじの一等も当てれるってこと?」


「まぁ………相当、運を消費するけど。おいっ! ヨダレが垂れてる」


ネムは、世界の宝くじの当選金とその確率を目を閉じ、指をパチパチ鳴らしながら、計算していた。


「私は、お、お、お金になんか、きょ、きょ、興味ないからね!」


「血走った目で近寄るな。そのヨダレを拭け」


鮎貝は、心配そうに僕の顔を正面から見つめていた。


「今まで、ずいぶん苦労されたでしょうね………。とてもツラかった……はず」


聖母のような、その汚れを知らない両眼に癒された。


………………………。

…………………。

……………。


さすがに三人一緒に寝るわけにもいかず、僕達はそれぞれ隣り合った部屋を自室とした。僕の部屋の左がネム、右側が鮎貝の部屋。これなら、何か問題が発生してもすぐに駆けつけることが出来る。


一人になると、静かな部屋が余計に広く感じた。


ギィ…ィ……………。


出窓を開けた。


小窓から顔を出し、夜空を見上げる。雲よりも遥かに高くそびえるタワー。最上階は、警備責任者のハルミから聞いていたフロアマスターの数から容易に想像出来た。


最上階は、150階。この上に149人もあの女のような危ないフロアマスター

がいる。風邪でもないのに、悪寒がした。


「……………っ」


その時。隣の部屋から清らかな歌声が聞こえてきた。ネムも出窓を開けているらしい。子守唄のようで…………どこか切なく…………。目を閉じて、しばらくその歌に聞き惚れていた。

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