第8話
ボロ家に帰り、急いで飯の準備をした。
その間、鮎貝には風呂に入ってもらう。風呂上がりで綺麗になった鮎貝、僕を睨みっぱなしのネムと三人で小さな食卓を囲む。
「よしっ。食おうぜ。いただきます!」
「いただきます……」
「私さぁ、この葉っぱ嫌いなんだけど?」
「好き嫌いしないで食べなさい!」
「…ぐっ……後で覚えてろよ」
「アナタ達って、本当に仲が良いのね。なんだか、見てて癒される………」
「そ、そう…か? 癒されるってよ。良かったな! ネム」
「何が良かっただよ……。アホ。そのニヤケ顔やめろ。腹立つから。んっ……と………ところで鮎貝さんは、ダーリンの知り合いなんですよね? どういうご関係ですか?」
「ごめんなさい。私ね……昔の記憶がなくて…………。前田さんのこと全く覚えていないの。だから………ごめんなさい」
「いやいやいやいや! 無理に僕のことなんて思い出さなくて大丈夫だよ。焦る必要ないし。あっ、その……うん。大丈夫だから」
「ありがとうございます。前田さん」
「はぁ………。あ~~、その優しさの半分でも良いから、彼女の私に分けて欲しいもんだなぁ」
「前田さんは、ネムさんに優しいと思いますよ。見つめる目が、優しいから。ネムさんのこと好きですよ、きっと」
「…………そうなん? ダーリン」
「余計なこと言ってないで、早く食べなよ。冷めるから」
「むぅぅ! 全然、優しくないっ!! 大嫌い、コイツ」
「フフ……」
鮎貝から住む家がないことを聞いたネムは、一緒に住むことを提案してくれた。
玄関前で見た、帰っていく二人の後ろ姿は、本当の姉妹のようで微笑ましく、いつまでも見ていたかった。
「…………………」
ただ一つ、不安もあった。
それは。
先ほどの食事中、ネムに興味を持った鮎貝が猫耳をサワサワ触っていた時。僕はある事に気付き、ゾッとした。ネムの『運』が鮎貝の手のひらを通して、ゆっくりと鮎貝の体に移動していたから。
勿論、当の本人はその事に気づいていない。見えていないのだから仕方ない。
鮎貝も僕と同じ特異体質に違いない。
今も歩く度、地面から微量の運を足裏から摂取している。生きる為に最低限の運を。鮎貝にも運はあったのだ。
あまりに少なすぎて、見逃していた。
【限りなくゼロに近く、葉っぱ一枚よりも少ない運で、今日も彼女は生きている】
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