第3話 この電子媒体全盛の時代でも『紙の本』は消えていない。 これって凄い事だよね!

 ……!


 ……マ、マイケル・ジンジャー先生!……あの名著『完璧な人生』の著者が……行方不明!?


 ……狭間はざまさんが見せてくれた今回の版が『第2版』だから『第1版』を読んでいた僕は見たことが無かったんだな……。


 ……それにしても……この本、こんなに売れてないとは……。 編集部の人は、必死に探しているようだけど……。



「……私の任務は貴方イノーヴァーの『監視』と『報告』だけだから、詳しい事は判らないけど……『マイケル・ジンジャー』は、貴方に『悪しき思想』を与える為に干渉して来た存在だったから……消えたんだと思う……」


 …………! !


 消えたぁ!? ……心臓の鼓動が早くなるのを感じた!


 ……お、落ち着け、僕!


 ……以前も書いたけど、マイケル・ジンジャー先生からは、次のような『金言』を教えて戴いた……


・誰かの事を心配したり、助けたりする……それこそが時間の『無駄』


・誰かの為だと思って行動するなんて『無駄』な体力を消耗するだけ


・思い返して『ああしておけば良かった』『ああしなければ良かった』……と後悔するのは『無駄』な精神的疲労。 


・全ての人間は『自分だけが良ければそれで良い』と思っている。 ……だから、相手を思いやる必要なんて無い。


・とどのつまりは、他人と関わる事自体が人生の無駄遣い。



 ……?


 ……あれ?


 ……これ……酷くない?


 ……『金言』って思っていたこの言葉って……あまりにも酷い。 ……何でこんな言葉に感銘を受けていたんだろう?


「……実は私ね……輪音りんね君がこの本を読んでいたから、調査の為に読んでみたの。 ……この本は、もしかしたら間違った事を書いていないのかも知れない。 ……でも、心を病んでしまった輪音君の思考パターンを変えるのに充分過ぎる影響を与えてしまったんだと思う」


 ……狭間さんの調査では、僕がこの本を読んだ直後から『マイケル・ジンジャー』という人が存在しなくなった……と言う……。


「じ、じゃあ! ……もしかしたら、僕が考え方を変えたせいで、マイケル・ジンジャー先生は『消えちゃった』……って事?」


 狭間さんは笑いながら言った。


「……輪音君、安心して。 ……『マイケル・ジンジャー』なんて人は、最初から存在してなかったの!」


 ……?


貴方イノーヴァーの思考を変えて『完璧な世界』の実現を阻む『暗躍者クリープス』が、『マイケル・ジンジャー』になりすまして発表したのが、この本……」


「なんで? 何でそんなに手の混んだ事をするの?」


「それはね……」


 ……狭間さんは、怒ったような? 嘲笑っているような? 悲しむような? 表情で……それでも、はっきりと言った……


「この世界で、最も強力な『変革者イノーヴァー』である……貴方を……『消す』ため!」

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