スボク~冒険者ギルド本部がある地域~

幻精のイタズラ

 惑星ハールトス、此処はルードゥスと自らを呼ぶ存在によって管理され、剣と魔法と科学が混在する文明を、ゲームの様なシステムを使いアシストし再現している特殊な場所。

 惑星の地域は空間的に断絶され、各地域を移動する為には、その断絶された空間に設置された境界面に存在する門を通らなければいけないようにされていた。

 その門はとても巨大だ。

 それは、交通量を妨げないようにする為のルードゥスの配慮。

 門は横幅十㎞、高さ十㎞という大きさで、物体としてそこに存在している訳では無く、そこを通れない、そこを通れるといった概念が存在している状態である。

 そんな神の御業により作られ維持されている門を通過される若者が一人いた。

 人の行き来が絶え間なく続き、門からは人並みは途絶えず蠢く。

 その人並みに紛れるようにして歩く彼だが、周囲の人々は彼へと視線を向けていた。

 そんな彼はお上りさんよろしく周囲をキョロキョロと見回しながら歩いていた。

 本人は一応お上りさんみたいにならないように気を付けているつもりのようだが、見る広が見れば慣れていない事は明白だ。

 興味深くを周囲へと注がれる彼の瞳には様々な種族が往来する様が映っていた。

 周囲へと注いでいた視線を彼がふと上に向けると、そこにも様々な存在が往来をしていた。

 それは騎獣に跨がり空を優雅に掛ける姿であったり、航空を突き抜ける飛行機の姿である。

 そういった風景を初めて見る彼だった為、周囲から自分へと向けられる視線に気付くのが遅れ、門から出て少しした所から自分が注目されていることに気付いた。


「見られている?」

 ミニマに聞こえる程度の小声で語りかける。

「そうね、私が居るって事もあるでしょうけれど、それと同時に今までさっきまで居なかった人が、門から出たら急に現れれば注目を集めるでしょ」

 ピクノスの声の大きさに合わせ、ミニマも雑踏に紛れてしまう程の小声で回答する。が、これ見よがしに肩に乗った状態で、ピクノスの耳元に小さな身体を寄せて話すその様は、内緒話をしていますよ言っているようなものだった。

「それは…確かに。そうだな。

 それは、それとして、ミニマが居ると注目されるというのは?」

「簡単な理由よ。

 明確に形を持った精霊に気に入られる存在って、それなりに少ないの。

 だからよ。

 まっ、私は精霊じゃなくて幻精だけどね」

 精霊に気に入られ、肩に精霊を座らせながら歩く人というのは、この世界では珍しい部類。

 さらにこの惑星ハールトスで精霊の多くは、姿形すがたかたちが一定な存在では無い小精霊の数が圧倒的に多く。

 明確に姿を持つ精霊いうのはそれだけで珍しい。

「さらにいえば、形を持った精霊に気に入られる人ってね、結構有名人が多いのよ。

 そうねえ…例えば建国を為した初代の王様とか?勇者とか?英雄とか?賢者とか?」

「なる程…つまり、無名の存在が精霊を連れていて、尚且ついきなり現れたから遠巻きに見られていると」

「そういうことっ」

 心の中でゲンナリしながらルードゥスに悪態を着く。

 何が積極的に何もしないだ、がっつりと干渉してるではないかと。

 自分自身で行わないだけで、ミニマが居るだけで今後色々と面倒な事が起きる可能性に辟易するピオニア。

 さらに、この世界がどんな価値観の人種・文化・国家で在るのかというのが分からない現状、何が起こるのかが分からないという状況というのもそれに拍車を掛けた。

 そして、それに気付いたピオニアの様を見つつ、ミニマはふわりと肩から飛び立つ。

「フフッ」

 ちょっとしたイタズラが成功した子供の様に屈託無く笑いながら、目の前で笑顔を振りまく幼精を見ながらピオニアは思う。

 幼精の在り様というか、神様の在り様というか、そういった人外の存在が関わりを持つということ、それによってどういった事が引き起こされるのか。

 ルードゥスの観察が、自分の描く観察と大分違うという事にピオニアは最初の段階で気付けたのだから、それで良しとする事にした。

「じゃ、門の近くにある冒険者ギルド派出所に行きましょ。

 こっちよ!着いてきて」

 と、言いながら、ミニマはご機嫌にピクノスを案内し始めるのだった。


 惑星ハールトスの各地域は空間的に断絶されていると事は幾度か記してきたので、皆さんの知る所だろう。

 そんな地域の一つ、冒険者ギルド本部が存在するのは此処スボクと呼ばれる地域。

 始まりの地とも呼ばれ神話・英雄譚等、様々な逸話の始まりとして描かれている地である。

 では、なぜそんな場所に冒険者ギルド本部が存在するか?

 実はこの冒険者ギルドは、ルードゥスが過去積極的にこの惑星の住民達へと干渉を行っていた時代に作られた組織である。

 つまり、冒険者ギルド自体が神物として認識されているのだ。

 こういった都合でこの地域はどの国家の支配を受け入れることは無く。

 冒険者ギルドは超法規的組織として、様々な地域で活動を行っている。

 さらに言うと、ここはルードゥスを神として信仰対象としている宗教にとってすれば、信仰の中心地として崇められている地域の一つである。

 その為、この地域にはルードゥスを神として崇める二つの宗教の大聖堂と彼等が生活を送る為の修道院と、その生活を支える街が存在し、それぞれに信徒が暮らしている。

 その結果このスボクの治安は、他の地域と比較して群を抜いて安定をしていた。

 が、それは脅威となる存在、モンスターによる脅威や国家間の闘争から程遠い環境かであるという意味あり、その逆に宗教的な軋轢という意味では、最も緊張している地域として有名である。


 ピクノス達が出現した門はこの地域の東に存在する。

 その門周辺―東以外の門にも―は、このスボクを訪れる人達を迎え入れる為の街が存在していた。

 それぞれの街には、冒険者ギルド派出所が置かれ、スボクの中央に聳える冒険者ギルド本部の出先機関として機能をしている。

 ピクノス達はこの派出所まで歩いて行ったのだが、本来であれば街の中を走る魔力駆動の乗り合い交通機関を使用するのが一般的となるのだが、生憎とピクノスはこの世界の通貨をまだ取得していなかった為、歩いて三十分弱程掛けてその行程を進んでいった。

 目的地となる建物に到着すると、ピクノス達はスボク冒険者ギルド東派出所の自動ドアを潜り抜ける、するとギルドの職員達が瞬間…本当に一瞬だがピクノスへと、正確にはピクノスの肩に座るミニマに注視した。

 むしろ、ギョっとした視線で在ったと言っても良いそれをピクノスは感じ取り、これが気の所為だと思い過ごしたいと望みながらも、先程のミニマとの会話から色々と面倒な事に繋がりそうだと、腹を括るのであった。

 そしてミニマはご機嫌だった。

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