勇者か?英雄か?救世主か?

 冒険者ギルド東派出所に入ったピクノスが見たのは整然とした光景だった。

 入り口近くの待機していた案内役の女性にピクノスは声を掛けられる。

「本日のご用件はなんですか?」

「冒険者登録をしに来たの、これから出来る?」

 ピクノスが応対の声を出す前に、すかさず対応するミニマ。

「畏まりました」

 と言いながら、発券機に手を伸ばし番号が書かれた紙片を取り出すと、

「こちらの番号札をお持ちになって、新規登録窓口前でお待ちください」

 と案内され、手の動作で行き先を差し示されると、ピクノスはそれに従い歩みを始めながら、

「有り難う御座います」

 と言いながら歩き出した。

 先程の瞬間的な視線の集中が起きたことを、ピクノス達以外になるべく悟らせないように彼等冒険者ギルドの職員は振る舞っていた。

 そして、ここは冒険者ギルド本部が存在する地域、派出所とは言っても新規登録者というものは少なく、窓口自体は常設されているものの、常に人員が配置されている訳では無かった。

 実際、ピクノス以外の新規登録者は居らず、窓口も入り口から遠い場所に設置されていた。

 そこに向かいながら、ピクノスは改めて周囲を観察する。

 各窓口の前には順番待ちの間座って待てるように、複数人で座れる長い椅子、各種書類が置かれたスタンディングデスク。

 観葉植物が置かれ落ち着いた雰囲気を演出しているし、ここを訪れている冒険者だろう人々も静かなものであるのだが、如何せんその冒険者達は立派な装備を着けているものが少なくなかった。

 この冒険者だろう全員が全員、装備を身につけている訳では無いのだが、役所然とした場所にいるという事に、ピクノスは違和感を感じずにはいられなかった。

 そんな事を思いながらも、新規登録者窓口に到着するピクノス。

 そこには担当者だろう受付の職員が受付窓口奥のデスクから歩いてきて、ピクノスの到着の少し前に窓口の席に着いている様子が見えていた。

 さらに言えば、最初の方は冒険者ギルド職員の方からの視線が瞬間的に注がれたのだが、今となっては冒険者側の方が意識をピクノスへと向ける事態になっていた。

 これは、冒険者という危険に身を置く彼等だからこそであるのかも知れない。

 瞬間ではあるが、いつもと違う雰囲気を出したギルド職員、その職員が凝視する場所にいたのは、肩に幼精…彼らにとっては精霊を乗せた記憶に無い誰か。

 その誰かは新規登録者窓口に案内される様を見れば、精霊に気に入れられたルーキーになるだろう存在を気に掛けるというのは、冒険者という仕事柄、情報の収集に余念が無い彼等にとってすれば極当たり前の行動であった。

「初めまして、本日対応させて頂きますエピア・コンと申します」

「よろしくお願いします。

 ピクノスと言います」

「ミニマよ!」

「早速ですが、ピクノス様、ミニマ様。

 ここで話しを続けるのは難しいと思いますので、会議室に案内をさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「是非」

 簡単に名前だけを教え合った簡単な挨拶をすると、受付担当のエピアはピクノスに対して提案を行った。

 それに対して、ミニマが何か言おうとする気配を感じ取ったピクノスは、前のめりに声を出す。

「では、此方へどうぞ」

 と言いながら立ち上がると、エピアはピクノス達の案内をし始める。

 そして、ピクノス達を連れ立って、二階に用意されている少人数用の会議室に向かうエピアだった。

 その二階へと向かう三人が居なくなると、冒険者達の意識が元に戻り、何処か緊張を孕んだ空気が霧散したようだ。


 落ち着いた雰囲気を醸し出しているオーク材の床を初めとして、全体的に木材をふんだんに使用した建築資材で造られた廊下を歩く三人。

「ピクノス様、ミニマ様。

 こちらの会議室になります」

 そこは小会議室と書かれた札が扉の上に設えられた部屋であった。

「後ほど私達の上司が来ますので、それまで冒険者についてご説明させて頂きます」

 そう言いつつ、扉を開き案内をし部屋の中の用意された会議用のテーブルへと案内するエピア。

 それに従いピクノスとミニマは席に着いた。

「まずは改めまして、この度ピクノス様とミニマ様の応対を任されましたエピア・コンと申します。

 最初にいくつか質問をしても宜しいでしょうか?」

「はい」

「では、前提条件の確認からお願いします。

 ピクノス様の現状のお立場はどの様になっているのでしょうか。ミニマ様」

「そうね~。ルードゥス様が感心を寄せられている人ね」

「感心と言いますと、どの様なことを期待されて御出ですか?」

「そうねー、ピクノスはちょっと変わった経緯で今ここに居るの。

 だから存在その物ね。ルードゥス様が興味をお持ちなのは。

 だから、あなた達が思うであろう何かを成し遂げる為の存在では無いわよ」

「なる程、そうしますとルードゥス様は常にピクノス様を見ておられると?」

「う~ん、どうかしらね?

 常にでは無いと思うわ。

 ただ、何かしらがあった場合、後で確認出来るようにはしてるわね」

「有り難う御座いますミニマ様。

 そうなりますと、ピクノス様の行動はピクノス様ご自身の判断に委ねられていると判断して宜しいでしょうか?」

「そうよ。

 私はピクノスの近くに居て、ちょっと手助けする程度だと思ってちょうだい」

「解りました。

 では、ピクノス様。

 貴方様は今後どの様な活動を行うご予定でしょうか?」

 ミニマとの対話が終わりエピアはピクノスへと質問を始める。

「そうですね…まずはこの世界の事を見て回ろうかと」

「そうなりますと、冒険者ギルドに来て頂けたと言うことは、冒険者ギルドの発行するクエストを熟すことを通じて、世界を見たいということで宜しいでしょうか?」

「あっ、それに関しては私がここに連れてきたの。

 ここってルードゥス様が作られた組織でしょ?

 色々と察してくれるからね」

「そうなのか?」

「そうよ!

 だから、このエピアって子も、ギルド職員だけれどもそれと同時にルードゥス様の巫女なのよ」

 色々と情報が出来てきたことにピクノスは驚きながらもそれを咀嚼していく。

「なるほど」

 と声を零す様を見てエピアは考えを巡らす。

「ミニマ様。

 ピクノス様は、現状どの程度の事を教わっているのでしょうか?」

「そうねー、ステータスシステムの事についてと、地域が分断されていることと、移動には門を通る必要がある事については教えたわ」

 ミニマの話し方とその内容で、何とはなしに色々と察したエピア。

「解りました。

 私共もルードゥス様の関心を集めている方には大変興味がありますので、色々とサポートをさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」

「えー、問題ないわ」

 ピクノスは軽く質問されただけで、ほとんどミニマとエピアが話しを進めている現状に身を任せていた。

 話しの内容から判断するに、現状では問題を感じなかったからだ。

 後はここからどの様な立場に自分を持って行くかを考えたい所なのだが、如何せん情報が少ない。

 その為、現状では情報を聞き逃さないようにしつつ様子見をした。

「では、この派出所の所長を呼んで参りますので、お寛ぎなってお待ちください」

 そう言ってエピアは会議室から出て行った。

 エピアの背中が扉の向こうに消えしばらくするとピクノスはミニマに声を掛けた。

「訳も分からない状況だったから言われるままにここまで来たけど、もう少し情報を教えてくれても良かったんじゃないかい?」

「どの程度あなたに情報を教えるのかについては、ある程度指示されているの。

 ルードゥス様は、今まで話してきたとと、あなた自身が困った状態に陥らない限り、隣人としてあなたは助けるようにと言ってたわ。

 だから、出来るだけ自分で答えを出してね」

「その割には、ここに何も言わずに誘導したりしてるが?」

「だって、何も知らない方が楽しいでしょ?」

 ピクノスはそう言われて改めてミニマという幼精について考える。

 そう、目の前の存在は幼精と呼ばれる存在で、この世界を管理している存在の眷属。

 つまりは自分の事は自分でやる必要があり、それに対してミニマはミニマとして動くと言う事。

 ただそれだけの事なのだが、ミニマの立場が色々とややこしい事態を引き起こすと言う事は、冒険者ギルドを訪れただけの、今の段階ですら理解出来てしまうものだった。

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