第12話


 あの円卓の騎士団を抜けた際、ボルグに『やる気がない』と怒られた状況と全く一致していた「ミスティアを救う為にここはグレイシー達と喧嘩をする訳にはいかない」と思ったアプロは我慢し、慌てて剣を抜いて戦う姿勢を見せた。


「今から構えるつもりだったんだ」

「うそッタァ!!」

「あぶねっ、何するんだ!!」


 グレイシーはアプロの顔を狙って拳を寸止めし、驚いたアプロはしかめっ面で見る。


「このグレイシーのD.パンチをかわすとはね……」

「で、でぃーぱんち?」

「ダッシュパンチさ!」

「凄くどうでもいい」


 グレイシーは親指を立ててキラリと歯を見せると、緑色のカードを取り出す。


「このグリーンカードの機能でね、今組んでいるみんなの位置がわかる、そして調べたところ君は……カードを持っていない!! つまり、本当のアプロくんは既に死んでおり、魔物が化けているんだろう!?」


 グレイシーが言うにはアプロがカードを落とした場所は駆け出し冒険者が集まるダンジョン、つまりアプロはそこで魔物に殺され、人間の住む街の中に潜入する為に化けていた……というのがグレイシーの推理だったが、もちろんその推理は綺麗に外れていた。





「無くしたんだよ、気が付いたら」


 アプロは嘘偽りなく無くした理由を答えたが、それはグレイシー達の不審をさらに高めるだけの発言であった。


「まだ人間を偽るのか、図々しい魔物だ!! 既にネタはあがっているんだよ!!」


 グレイシーは強く否定し、その場にいたパーティメンバー達もうんうんと頷き、「これ以上何を言っても無駄だな」とアプロは気怠そうに集団の前を歩き始める。


「じゃあ、俺が集団の前を歩けばいいだろ、何か変な事したのなら後ろから斬ればいい」


 なるほど、と納得するグレイシー。


「……アチャア、確かにその位置なら僕たちがいつでも斬りかかれる」

「ああ、それにこの事件で捕まってしまったみんなから聞けば、俺が魔物かどうかもわかるだろ」

「なるほど!! アプロくん、君はなかなか賢いじゃないか!!」

「どう致しましてッタァ」

「僕のかけ声をパクらないでくれたまえ!!」

「わかっタァ」


 内心、なんとかパーティから追放されずにホッとしていたアプロは、更なる疑いをかけられないよう、最小限の発言に留め、グレイシーからの質問に返答を繰り返していた、すると、グレイシーの眉がピクリと動き、突如として足を止めるようみんなに指示する。


「みんな、魔物だ!!」


 グレイシーは叫んだ、続けてガサガサと左右の茂みから音がし始め全員が武器を構え、「ちょっと待て!!」と叫ぶアプロに向かって斬りかかろうとしたその瞬間――。


「邪魔は……させない」


 茂みから出てきたのは、同じ事を呟きながらフラフラと亡霊のように歩く者達だった、グレイシー達が探していたメンバー達である事がわかると、彼らを出迎える為に全員は警戒を解き、武器を下ろして安易に近寄ってしまう。


 その様子を「何かがおかしいと」アプロは勘付いた。


「まずい、罠だ!!」


 彼らの目は人形のように生気が感じられない、これこそが魔物の罠だと気付いたアプロは全員に向かって叫び散らした。


「えっ?」

「どうしたんだ急に?」


 ――アプロの予想通り、命令でも下されたかのように冒険者達はスッと剣を抜くと。


「ぐああああっ!!」

「何をするんだ、やめてくれ!!」

「ぐおおおっ!! どうして、仲間だろ……!?」


 目の前の者達を全員『敵』だと認識し、グレイシー達に斬りかかった、苦痛の声を次々とあげながらその場に転がり痛がるグレイシーの仲間達、その近くで立っていたアプロもまた、周りの痛みを共有し腹を抑えながらその場に座り込んだ。


「くっ……!!」


 なぜ彼らが急に襲ってきたのか……理由はわからないが、何者かによって操られているとアプロは解釈すると同時に魔物は関与してないと確信した。


「邪魔は……させない」


 倒れ込んで苦しがるアプロの目の前に立ち、視線が定まっていなかった1人の冒険者は剣を構えると、スッと迷わず振り下ろそうとする。


(やられる!!)


 痛みから逃れようと咄嗟に目を閉じてしまうアプロ。




 ――キンッ!!


 一度だけ、鉄同士がぶつかった音が響き渡った、痛くない、そう思ったアプロはゆっくりと目を開けると――。


「アプロくん! 彼らに治療魔法をかけ、すぐにこの場から離れるんだ!!」


 目の前には1人の男がやけに格好をつけたポーズで立っていて、その姿はグレイシーと認識するアプロ、近くにはグレイシーが蹴っ飛ばしたのか、先ほど冒険者が持っていた剣が地面に突き刺さっていた。


「ぐ、グレイシーさん!?」

「は、早くするんだ!! 数が多くてこれでは……!!」

「いや、俺魔力が……」

「早くするッチャア!!」


 仕方なくアプロは詠唱する。


「癒やしの波状よ、ここより広がりたまえ。キュア・ヒール!」


 本人の言う通り元々アプロの魔力はゼロに近い、故に冒険者全員が習得しているはずの回復魔法ですら怪しく、複数人がパーティに加入している事により――。


 ポワン。


「ですよねー」


 なんとも情けない音が鳴り、握った拳よりも小さい緑色の光がアプロのささくれを治療する、肝心のパーティメンバーのケガは治る事はなく、また表情も和らがなかった。


「どうだアプロくん!!」

「俺のささくれだけが治った」

「ホォーーーーッ!! もういい! キミだけ街を目指して逃げるんだ!!」

「わかった」

「コラ!! あっさり仲間を見捨ててはダメだ!!」

「え?」

「一度否定してから逃げるシーンだろうここは!!」

「あ、はい」


 理不尽な要求にアプロは困惑しながらも、目の前の相手をどう対処するべきか考える、まずはパーティを崩すべきなのだがどう言ったらグレイシーが納得してくれるのか悩むアプロ。


(確か……)


 先ほど言っていた『邪魔はさせない』この言葉がどうもアプロは気になっていた。


「あのさ、グレイシーさん」


 アプロの言葉は届いていなかった、ゆら、ゆらとゆっくり歩きながら武器を持って近寄ってくる冒険者達にグレイシーはやりずらいという顔を見せつつ、仕方なく拳を構える。


「僕が仲間を助け、伝説になったという話だけでも街にいるグレイシーファンの方々に届けてくれ!!」

「いやあの」

「僕は……僕は最後まで立派な冒険者であったと!! 仲間を見捨てずに1人でも多くの人物を」

「いや聞けよ、救う方法を思いついた」

「アタ?」


 グレイシーの話を無理矢理遮り、ある提案を話そうとしたアプロ、その応対に一瞬気を取られてしまったグレイシーは、操られた複数人によって肩や足を掴まれてしまう。


「ホアアアアアッ!!! 離すッチャア!!」

「邪魔は……させない」



 やっぱりそうだ、同じ言葉を言っている、閃いたアプロは”ある方法”に賭けるしかないと、グレイシーに話かけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る