第05話 金の力とは、感染症なり

 2016年の選挙戦でカードを打ちのめせなかった中酷強酸党とその支持者たちは、カードが打ち出した通信品位法第230条が万が一にも連邦議会で承認されれば、GAFAに多額の資金を投入している投資家にとっては多額の資金の喪失に繋がる。中共の思惑に加え、大物の投資家が2020大統領選に参戦し、自分たちに不都合なカードを追いやる事で一致した。

 万が一、連邦議会で承認される?その恐れはなかった。そもそも

230条は政府機関の報道に関してであり、民間企業には適応されることを考慮されていない。GAFA側も現実味はないと言うものの強制的に変更されないという保証もなかった。さらに、カードとカードの所属する共和党を疎ましく見る民主党は、中酷強酸党の力を借り、司法判事をも毒牙に掛けていた。米国は世界的に影響力を持つ大国だが建国してまだ日が浅い。彼らが作り出した法案には、矛盾点が多く残されていた。三権分立を謳いながら、最高裁や司法に携わる者が中立ではなく、共和党・民主党のいずれかを指示する者が付きその多数決で決議されていた。


 「指導者を名乗る米国の司法がこの様だ。我らと何が違う。世界を見ろ。奴らが誇る民衆主義など、独裁国家・強酸主義国家を数えてみれば分かる、どっちを世界が求めているかがな。最も、貧乏国のなくてもいいような国ばかりだがな。しかし、奴らが支持する主義の中では一国だ、そんな取るに足りない国でも尊重される。我らが容易に取り込めるのにだ。有難い事ではないか。我らに有利に働く主義を尊重してくれるとは、あははははは」


 カードが就任して三年が過ぎようとしていた。2020年の大統領選の予備選挙が行われる時期だった。狂人的発言と実行力で良くも悪くも世界的に注目を浴びるカードの人気は、中酷強酸党と民主党の大いなる脅威となっていた。人気でだけではなく、移民問題や雇用の問題、経済改善にも成果を出し、指導者の一面を見始めていた。

 カードのライバルとなる民主党は、前大統領・民主党バラン・オーマンの副大統領だったバイト・ノイズに決まった。バイトには痴呆症の疑いが持たれていた。バイトの息子・カイトは、中酷企業から多額の収益を得ていた。謂わば、中酷に生かされていた。前大統領のオーマンは在任中、財務審査を逃れていた中酷企業に対するウォール街からの不満に対し、それを黙認し、中酷企業の繁栄を手助けする形となっていた。着実に中酷強酸党と民主党は、蜜月に向けて進んでいた。


 民主党は、2020年の大統領選に向けて、共和党のカード人気に枕を高くして眠れないでいた。民主党を支援する世界でも名高い大富豪ビル・ゲインは、オンラインで秀欣平に助けを求めた。ビル・ゲインは、未成年者への売春勧誘の疑いがもたれるエロインと頻繁に会い、セレブの未成年買春を謳歌していた。それと同じころ財団の中酷通訳者のチェワンと知り合い、妻と離婚。チェワンの歎願を聞き、民主党の応援に動いていた。いや、動かされた。未成年との関係とチェワンとの関係から国家レベルの機密情報の流れを表沙汰にしたくなかったのと、カードの陣営が2020年の大統領選に向けエロインの交友関係を民主党関係者に絞り本格的に探り始めたからだ。


 「mr.秀。カードを追い払うのに確実な方法はないのか」

 「確実な方法だと…。そんな簡単な事も分からないのか」

 「どう言う意味だ」

 「選挙は誰によって決められるのかね」

 「有権者だろう」

 「だから、君たちは勝てないんだ」

 「どう言うことだ」

 「教えてやるか。選挙は投票する者が決めるのではない。票を数える者が決めるのだ」

 「買収?不正か?」

 「不正?愚かな者はそう言うかもしれないな。しかし、賢者は結果が真偽をも変える事を知っている。それに買収などに無駄金はもう使わない」

 「具体的にはどうするんだ」

 「我ら中酷強酸党が配下に置く電子投票システム「レオン」を導入すればいい。ある国の大統領選挙で実績は確認済だ」

 「それはいい」

 「それはいいか?だから君たちは負け犬にしかなれないのだ。手配はもう済んでいる。主な州知事は我らのしもべだ。君たちに出来ることは、痴呆症の老いぼれた犬にぼろを出させないことだ」

 「しかし、選挙活動が…」

 「選挙活動?そんなものはいらない。愚かな国民には我らが与える情報を麻薬のように嗅がせればいい、真実が何かなど考えないようにな。我が国は上手くいっているぞ」

 「…」

 「まぁ、任せて置けばいい。準備は出来ている。まだ心配か?」

 「あ、ああ」

 「では、教えてやる。前回の様な失態は招きたくないからな」

 「どうするんだ」

 「有権者が直接投票する物を操作すると不正発覚の危険が付き纏う。さぁ、困ったねぇ」

 「どうするんだ?」

 「どうするんだ?益々、君たちに任せられないな」

 「…」

 「票を自由に得る方法は、郵便投票を我が物にすることだ」

 「郵便投票を…。でも多くの郵便投票を促す手は」

 「はぁ、まぁいい、教えてやる。郵便投票の比重を高めるんだよ」

 「そんなことが出来るのか?」

 「またか…。まぁ、いい。いいことを教えてやる。間もなくアメリカで原因不明の風邪が大流行する。単なる風邪ではない。人類が経験したことのない風邪だ」

 「細菌兵器か?」

 「まぁ、知らないこともあってもいいだろう。君たちは君たちの仕事をすればいい」

 「あ、ああ」


 秀は思っていた。世界の大富豪と言えど所詮は個人。国家の力で動かせる策略とは桁が違うと。ビル・ゲインは感染症対策に財団を用意し、多額の資金を投入していた。それを隠れ蓑に中酷強酸党の国策を遂行する資金を横流ししていた。


 天は、悪意を自由にはさせない。秀の思惑は足元からすくわれる。細菌研究所から管理の緩みから武漢ウィルスが外に漏れ出る。武漢を中心に感染者が拡大した。慌てた秀は武漢を閉鎖し、研究者を処罰・隔離した。


 「愚か者目。管理すら出来ないのか、我が国の愚か者は。さっさと手を打て。私は尻拭いをしないといけないのでね」


 秀は直々に世界保健機関(WHO)事務局長のテッド・アダムに連絡を取った。テッドは中酷強酸党に逆らえないでいた。彼の祖国への多額の資金提供とテッド自身の後ろ盾になっていたからだ。


 「いや、元気か」

 「どうしたんですか?直々に」

 「まぁ、こんなことがあってもいいだろう」

 「ええ」

 「さて、君の国への投資を考え直さなければならない事情ができた」

 「そ、それはどう言うことですか」

 「君の返事次第で我が国の投資を直ぐにでも廃止し、回収しなくてはならなくなる、そうしたくはないだろう」

 「何をしろと言うのです」

 「いやぁ、簡単なことだ」

 「…」

 「今、我が国である病気が蔓延している」

 「病気?」

 「ああ、でも安心しろ。ワクチンはあり、医療体制も整っている」

 「なら、何故、報告を?」

 「そりゃそうだろう、WHOへの報告は大事だろ」

 「ああ、それは…。早速世界に警鐘を」

 「それは要らないだろう。もう沈静に向かっているし、人への感染もないからな」

 「しかし…」

 「そうだな、君の立場じゃ見逃せないか。じゃ、発表すればいい。但し、中酷での感染は沈静化し、また人への感染もない。そうだな単なる風邪が中酷で流行っている程度に発表すればいい」

 「それなら何故、発表するのですか?」

 「いやぁ、国民が世界を駆け巡っているだろ、遅かれ早かれ流行病は露呈するからな。先手を打つのも得策かなっと思ってね」

 「本当に人への感染はないのですね」

 「君は誰と話している?そのまま事務局長の椅子に座り続けたいのなら、誰を信じて動けばいいか分かるはずだが」

 「わ、わかった」


 WHOの事務局長の座につけたのも中共の根回し、賄賂のお蔭。テッドは不信感を持ちながらも、世界に発信するしかなかった。その頃には、世界で原因不明の風邪が広がりを見せていた。


 「今、世界で流行っている感染症は事実だが、いち早く警鐘すべく報告をしてくれた中酷は、人への感染はなく、既に沈静化を迎えている。いち早く対応してくれた中酷に感謝する」


 「いいぞ、それでいい」


 秀は、テッドの発表に悦に入っていた。

 WHOの発表は、世界に安堵感と油断を与えた。その裏では、内部告発者と不審に思った研究者からは危機感を伝える情報がSNSなどから世界に拡散し始めていた。

 アメリカはいつものインフルエンザと捉えたことにより、一気に貧困層や保険未介入者、把握されない移民を媒介として被害は広がった。驚いたのは安全だと宣言したWHOのテッドだった。


 「mr.秀。あなたから聞いた内容とは違うじゃないか」

 「何の事かな?発表したのは君だ、私はには関係がない」

 「…」

 「君は、もう沼に踏み入れた、足を汚さずに抜くことは出来ない。そうだ、いいことを教えてやろう、毒を食らわば皿までと言う言葉がある、しっかり、皿を嘗め尽くすことだ、それが君と君の祖国を守り抜く手段だよ、じゃぁな」


 テッドは、蛇に睨まれた蛙だった。世界各国からのクレームに耐え、その定めを受け止めるしかなかった。



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