第04話 2016年、大統領選の屈辱

 「主席、カードが二期目を目指し、勢いを増しています」

 「心配は要らない。手は打ってある」

 「はっ。それと全民代の中でカードへの懸念が高まっています」

 「そんなもの吹き飛ばしてやるわ」


 秀欣平には苦い経験があった。それは、カードが大統領となった2016年の大統領選だった。


 「一体一路を推進する。中酷強酸党は、貧しい国を融資で借金漬けにし、その利権を奪う。インフラを構築、工場建設を主体として友好的に我が国民を送り込み、その地域を支配し、市民権を奪い、議会をも征服する。あらゆる手を用いて権力者を腐敗の渦に陥れる。もう、中酷強酸党に逆らえる者などいない」

 「万岁Wànsuì

 「全世界を中酷強酸党配下にするのに一番の厄介な蠅は米国である。しかし、安堵せよ。軍事力、経済力では引けを取らない、いや、上回るのは間近だ。戦浪戦争の結果は出ている。既に米国の要人の弱みを掴み、利権漬けにした。もう、我々に逆らえない。この大統領選を我が中酷強酸党が握る事をここに宣言する」

 「万岁Wànsuì

 「米国民主党の大統領候補者ヒラリンは我が手にある。共和党のカードとやらは豚の餌として消え去るだろう」

 「万岁Wànsuì

 「フォーウェアが得た個人情報を掌握し、米国を牛耳る。この地球で人類と呼べるのは、中酷強酸党員のみだ。それ以外は、我らの私腹を肥やすしもべでしかない。その実現に向けての今回の大統領選だ。我らに幸あれ」

 「万岁Wànsuì

 

 高らかに声明を打ち上げるも、結果はまさかのものだった。

 思惑通り優位に進めていた選挙は、思わぬ綻びをみせた。ヒラリンを呪縛するスキャンダルが何者かによって外部に漏らされたのだ。

 戦況は一転する。ヒラリン次期大統領候補の名声は、汚名の先鋒に晒された。カード側の陰謀だと声高に訴えるも付随した情報が雪崩のように真偽を問わずヒラリンに襲い掛かった。ここに秀欣平の思惑は崩れ去った。


 「一体、何が起こった。ロシアの横槍か…。ロシアに何の得がある?奴らは何をしている。この失態は、必ず取り返す、何倍にもしてな。ふん、カードか。白豚に何ができる」


 と、高を括っていた秀は、カードを軽視できなくなる。カードは米国再生に向けてアメリカファーストを掲げ、既存の組織や規則を大統領命を乱発し、悉く覆していった。長い年月を掛けて構築してきた中酷強酸党の利権を脅かす存在となった。


 「カードめ。愚策が長く続くと思うなよ。まぁ、四年は唾を吐き飛ばせばいい。中酷の路上でよく見かける光景だ、慣れている。その間に洗脳し、呪縛した連中を更に強く拘束し、お前を葬ってやる。楽しみにしていろ、白豚め」


 秀の考える以上にカードの中酷への締め付けは激しかった。貿易赤字を理由に中酷強酸党の築き上げてきた利権を崩壊へと導いて行った。


 「目障りな奴だ。愚者に任せて置けない。世界席捲まであと少しだったというのに。仕方がない計画を早めるか」


 愚か者とは、票の買収に雇い入れた有色人種たちと工作員が満を持して取り込んだ企業による票だった。米国では、移民やイカレタ白人の中には、票を2ドルから10ドルで売り渡し、自慢げにSNSに上げる者も少なくない。多額の資金をつぎ込み、目的の達成に確信を得ていた。しかし、民主党のヒラリンは何者かの手によってスキャンダルを暴かれ、優勢から一挙に奈落の底へと突き落とされた。カードを貶めようと用意したロスアゲートは、ヒラリンが主役となり、選挙中に真相が明らかにならないのは確実であり、それは、ヒラリンの敗北を意味していた。

 焦りの色を隠せない秀は、ウィルス戦争の実施日を早めた。現場からは、ワクチンの完成を待ってからと苦言も出たが、苦言を呈する者は容赦なく粛清されていった。


 「学者は専門分野だけを盗めばいい、他の事に見向きもするな。我らのために働けばいい。これだから民主主義など国力を弱める弊害にしかならい、と言うのだ」


 米国は、中酷強酸党と秀欣平と言う蛇に睨まれた蛙。米国を支配するのに手段は選ばない。暴れる蛇を抑える蛙は、飛ぶ前に、賄賂、利権、女士、スキャンダルにより秀に悉く刈り取られていった。

 秀は、これまで以上に米国のマスゴミに幅広く投資した。広告獲得に躍起になる民間マスゴミは簡単に掌握されていった。蟻のように働いていたマスコゴミもキリギリスの甘味を晒されれば、安易に逆らえなるばかりか、働くことを捨て、コピーペーストの言いなりに従うしかなくなっていた。

 中酷強酸党の撒いた資金に群がる投資家の存在も無視できなかった。中酷強酸党の資金に掌握されたマスゴミは、中酷の意向を受けた中酷崇拝・有利の偏向報道を繰り返す。


 「馬鹿な国民は、我々マスゴミの思惑に従うしかない。情報はマスゴミが作る。真偽などどうでもいい。流す情報で投資家が儲ければいい。それによって我々は潤うのだから」


と、大手報道機関は中酷強酸党に洗脳され、真実を語る事を放棄し、金の亡者と化していた。それが自分たちが求める真実として。


 秀は、今回の失態を処理すべき案件として受け止め、優先順位を繰り上げた。密かに進めていた民主主義の選挙の在り方を根本的に覆す禁断の実を毟り取る事を決意した。

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