四十、 彼女との思いで
彼女と過ごす日々はとんでもなく早く過ぎていった。
いろいろなところへデートにも行った。
以前の映画のリベンジということで、また直前まで見る映画の内容を決めずに見に行ったりもした。
結局その映画の内容も微妙だったわけだが。相変わらず俺達には作品選びのセンスがないようだった。
それでもそのあと微妙だったねと彼女と話しながら飲むコーヒーは格別だった。
夏休みにはプールと海にも行った。
当然彼女は水着だったわけだが、白いスカートがついている水着だった。
俺はあまりの美麗さに海に溺れるところだった。
「溺れるなら海じゃなくて私にして!」と半泣きで言われたときは、彼女が泣きそうになっていることよりも、言われた内容が衝撃的過ぎてまたおぼれそうになった。
危うく海デートが今後一切禁止になりかけたがそれは何とか阻止した。
プールに行った時も似たようなことになった。
プールに行く前に海に行っているから彼女の水着姿に大勢はついているだろうと考えていた俺が甘かった。
なんと彼女はビキニで現れたのだ。
失神は何とか免れたが、鼻血はちょっと出ていたかもしれない。
俺の顔を見て彼女は引いていたからきっと出ていたのだろう。
未だに手をつなぐくらいしか恋人らしいことをしていない俺たちだが、その時の彼女はテンションが相当に上がっていたのかプールの中で俺に背後から抱き着いてきた。
驚きもそうだが、彼女のいろんな柔らかい感触が一気に襲ってきて、あの衝撃は一生忘れられそうにない。
またおぼれそうになって彼女に怒られた。
でもこれに関しては彼女も悪いと思う。
夏祭りにも一緒に行った。
レンタルする浴衣を一緒に借りに行って、俺はいいといったのだが彼女がどうしてもというので、人生で初めて浴衣を着た。
彼女も初めてだと言っていた。
意外だというと今まで見せたい人がいなかったからと、恥ずかしそうに言っていた。
その言い方はとてつもなく可愛かった。卑怯なほどに。
レンタルした浴衣はお互いに当日まで見せないことにしていた。
そして当日やってきた浴衣姿の彼女。
闇に照らされる提灯よりも明るい存在が俺の目の前に立っていた。
いつもは下ろしている髪をくくり上げ、全体的に青色の浴衣が彼女の清涼さを現わしていた。
思わず勝手に写真を撮ってめちゃくちゃ怒られた。
そして俺が撮った写真の10倍以上彼女は俺が一人で写っている写真を撮っていた。
まあ喜んでくれていたから着た価値はあったのだろう。
そういえば彼女と付き合っているということも今や学校中に知れ渡っている。
というか彼女がばらした。
言っておくが何も彼女は悪くない。
案の定というか予測すべきだったというか、俺は彼女のストーカーではないかと学校でうわさが広がっていた。
いうまでもなくあの公園に通っていた時期、しっかりと同じ学校の生徒に見られていたのだ。
俺自身隠れるつもりもなかったため、ばれても仕方がなかった。
もともと目立っていなかったのだ。
今更どんな噂を立てられたところで、俺は別に気にしていなかったのだが彼女はそうはいかなかった。
俺はその時に初めて彼女の本気の怒りを見たのかもしれない。
いつも俺に向けてくるすねたような怒り方ではなく、いたって冷静にトーンを上げることなく無表情で大勢を追い詰めていく。
逃げ場がなくなっても、崖際に追い詰めたとしても崖下に落とさん勢いで、言葉のみで真実のみを述べて相手を追い詰める。
俺はそんな彼女の様子を見て本気で怒らせるのだけはやめようと思った。
実にかっこいい姿だったが、あれが自分に向けられると感がると少しだけ怖い。
まあ実際のところ彼女もヒートアップしていたようで、その時にすべてを話してしまったのだ。
後々彼女は恥ずかしそうになんであんなことを公衆の面前で意気揚々と言っちゃったんだろうと赤面していた。
正直に言おう。
俺のために起こってくれる彼女がすごくうれしかった。
あとは同志の助けもあり、俺のストーカー疑惑は晴れることになった。
ストーカーといえば五十嵐琢也の件もいつの間にか解決していた。
あれくらいでは収まる彼ではないと思っていたが、あれ以降彼が学校に来ているところを見たことがなかった。
あえてあまり触れないようにしていたが彼女にそれとなくメッセージについて聞いてみたら、あの一件から少ししてぱったりと連絡が来なくなったようだ。
同志にその話をしたところ「彼にはしかるべきを処置を行いました。会長は嫌がるかと思いましたが、最終手段です。彼は転校することになりました。メッセージももう送られることもないから安心していいですよ」と数名が怪しげな笑みを浮かべて答えを教えてくれた。
どうやら何かしら動いてくれていたようだった。
しかしストーカー行為を完全に辞めさせるなんて、もしかしたら俺の同志たちは実はとんでもない人たちなのかもしれない。
まあどういう人物であれ、俺にとってかけがえのない尊敬できる同志であることに変わりはないのだが。
「会長があそこで動いていたから僕たちも円滑に事を運ぶことができました」と言われたときは、なぜか報われたような気がした。
まああの出来事がなければこうして今彼女と一緒にいないかもしれないと考えると、あの出来事に感謝することはなけれど、あの時行動したことを後悔することはなかった。
「何書いてるの?」
俺はペンを置いて大きく伸びをするとその伸びている腕をかいくぐるようにして顔を肩越しにこちらに出し、俺が書いているノートを見つめている。
「なにこれ?」
「自由研究」
「……日記じゃなくて?」
「いやこれは俺の推しがいかに素晴らしいかを教職員たちにより知ってもらうために、付き合い始めてからこの夏休み中何があったかを記す自由研究」
「却下」
「ふむ……確かに最後の部分は少し脱線してしまった気がするな。わかった。この部分は削って、もっと君のことを書くようにしよう」
「そういう意味じゃなくて全部却下です。自由研究はやり直し。このノートは没収します」
「そんな! 今からやっても間に合わないぞ!」
「放置してる悠くんが悪いんでしょ。まったく、意外とそういうところはルーズなんだから」
「基本的に君のことしか興味ないからな。君を見ているだけで時間が無限に過ぎていくんだ。困ったものだ」
「……私が悪いみたいに言わない」
「まあそう照れるな」
「うるさい。そんなことしている暇があったら文化祭の練習付き合って!」
「任せろ」
彼女は今文化祭のバンドのためにギター練習をしている。
今年は去年よりもグレードアップしてギターボーカルに挑戦するらしい。
そんな彼女の練習風景を見るのも今の俺の楽しみの一つだった。
彼女と過ごしていると毎日が恐ろしいほど早く過ぎ去っていく。
文化祭はもうすぐそこまで迫ってきていた。
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