五章 牢屋
牢の中は恐ろしく寒いのです。
おもんは、諦めてはいません。
何が起こったのか分からないまま、蒸し暑い北堀西詰の牢屋敷に押し込められたのでした。
詮議が始まると、すぐに磔の刑を申し渡されました。
庄原の直紀爺さんは、必ず救い出してやるから心配するなって云っています。
南原の真鍋の仕業に違いないと云っています。
絶対に陰謀を暴いてやると口をへのじにして何かを睨んでいます。
北堀の直満伯父さんは、手を回しているから安心しろって云うのです。
見晴の大西を捕まえて白状させると息巻いています。
米原親子が、おもんを救い出そうとしているのは間違いありません。
それも親子別々にです。
この親子に結束という言葉は無いようです。
明日は、嶽下の刑場で磔になるのです。
何を考えるという事もなく、座っていました。
牢の部屋には頑丈な戸口、一つしかありません。
牢の中からは、その出入口は見えないのですが、誰かが入ってきたのは分かりました。
入ってきたのはお侍さんでした。
お侍さんは、牢番に風呂敷包を渡し、何か伝えると、また出て行きました。
牢番が、若い方の牢番に何か囁きました。
牢番は、おもんの方に近づくと、お侍さんから受け取った風呂敷包を牢に入れました。
「それに着替えてください」
牢番が云いました。
おもんは頷いて風呂敷包を解くと、白装束でした。
今から嶽下に連れて行かれるのだと思いました。
おもんは、着替えました。
「着替えました」おもんは、牢の前で、背を向けて立っている牢番に伝えました。
牢番が振り返って頷き、牢の錠を外しました。
「出てください」牢番が、牢を開けておもんに牢から出るように云いました。
部屋の板格子を開けると土間に草履が揃えてありました。
草履を履くと、先程のお侍さんが隣の部屋から出て来たのです。
「付いて来てください」
お侍さんがそう云って土間の突き当りの木戸へ向かっています。
おもんは、お侍さんの後に従って付いて行きました。
牢屋敷の外に出ると唐丸籠が置かれていて、小者が二人控えていました。
雪が降っています。
「乗ってください」お侍さんが云いました。
おもんは云われるがまま駕籠に乗りました。もう何も考えられませんでした。
駕籠に乗ると小者が竹竿を担ぎました。駕籠が撓って浮かびました。
お侍さんが馬に乗って先導しています。風が少し強くなってきました。
駕籠は堀に沿って進んでいます。石橋を渡って、また、堀にそって進んで行きます。
吹雪になってきました。
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