四章 9.疾走

西展望台が見える。

ここまで、きつい登り坂だ。

息が切れる。

花火の音は遠ざかり賑やかな歓声も聞こえない。


展望台の東屋へ入った。

誰も居ない。

汗が目に入る。

桟橋に人影が見える。

桟橋を確認しようと崖際へ寄った。

生垣の端に誰か居る。

「誰や?!」

男が叫んだ。

努は声を出さなかった。

黙っていると男が近づいて来る。

努は身構えた。

「ど、どしたんな。儂は、何もしとらんぞ」

男は、古沢町議だった。

「乱暴するなよ」

追い剥ぎか何かと勘違いしたのか、北展望台の方へ走って行く。

何をしていたのだろう。


崖の際へ寄ると、桟橋が見える。

海面に懐中電灯の光が見える。

あれは、坂口社長だ。坂口社長がモーターボートに乗っている。

寺井社長と大内さんがモーターボートに乗り込んだ。

モーターボートは西へ向かっている。

嶽下へ向かっているのだろう。

結局、嶽下まで走るしかない。

努は嶽下展望台を目指して駆け出した。

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