四章 4.和解
「藤子さんには犯人の見当が付いとるんか」須賀は、坂口に聞いた。
須賀には分らなかった。
「たぶん」
坂口は曖昧な返事しかしない。
藤子さんが、仕掛けようとしている事で、青木の爺さんを殺害した犯人が、分かるのだろうか。
藤子さんが、寺井社長を北展望台へ誘い出す。
そこで、弥生さんから聞いた、寺井社長と須賀直道の出来事の真相を確認する。
次に、北崖の脇道を通って、西崖の待避所まで行く。
待避所から、崖を下りて、桟橋に繋いでいる、モーターボートに乗り込む。
西崖の桟橋から、白間の坂口建設へ向かう。
藤子さんが考えている須賀直道と岡島記者の嶽下の崖からの転落死について、寺井社長に説明する。
藤子さんの推理では、須賀の父親も、岡島さんも嶽下の崖から転落したのではないと考えている。
二人とも、西崖の待避所から、突き落されたと考えている。
そして、犯人は、遺体を嶽下まで運んだ。
ただ、動機については、坂口も聞いていない。
嶽下の沖を通って、坂口建設の資材置場にモーターボートを着ける。
犯行方法の説明を終えて、また、モーターボートで西崖の桟橋へ戻る。
その前に古沢が、西展望台に現れたら、須賀が見張っておく。
もし、古沢が、どこかへ移動しても、必ず西展望台に戻って来る。
須賀は、モーターボートが戻って来るまで、待避所から動かないようにという事だ。
その後の事は、坂口にも分からないという事だ。
そもそも、青木の爺さんは、何故、さくら祭の当日と、その翌日の二日間、モーターボートの予約を取ったのだろうか。
これも不自然だ。
青木の爺さんは、モーターボートの操縦ができる。
以前から、寺井海運へ自分で足を運び、予約を取っていた。
さくら祭の翌日は、火事になった宮田製材所が予約を入れていた。
それなのに、坂口に頼んで、強引に予約を取った。
青木の爺さんは、何かを知った。
そして、何かを企んだ。
さくら祭の当日、その何かを実行した。
そして、殺された。
それでは、古沢を疑っているという事だろうか。
古沢は、青木の爺さんに誘われて、北山公園で花見をしていた。
版画家の松田と、米田のおっさんも、行方が分からなくなった青木の爺さんを探していた。
人気の無い場所を手分けして探していたのだから、三人を目撃した人はいない。
松田にしても、米田のおっさんにしても、青木の爺さんを殺害する機会はあった。
それなのに、藤子さんが、古沢を疑っているのは何故なのか。
そもそも、青木の爺さんは、何故、版画家の松田を花見に、誘ったのか。
古沢にしろと米田のおっさんにしろ、郷土資料館の建設に関わっている。
版画家の松田とは、どんな繋がりがあるのか。
「埋立で、町が発展するとは思えんのや」
坂口が云った。
ふと、我に返った。
須賀は、坂口の話を聞いていなかった。
須賀は、藤子さんが、何故、古沢を疑っているのか考えていた。
坂口の声が、耳に入るようになった。
「儂ら町民に、何か得になる事が、あるんかえ?」
ただ、綺麗な海を埋め立てて終わり、という結果にならないのか?と坂口は云っている。
何が切っ掛けで、そんな話になったのか。
「おい。須賀よ。お前の父ちゃんも、海、埋立するんは、反対やったと思うでぇ。はまちの養殖さえ、上手い事行っとったらなあ」
須賀は、小学校三年生の時に、父親を亡くしている。
父親が、どんな男だったのか、話は聞いているが、実際に海を埋立てる事についてどう考えているのか、考えたことは無い。
「俺は、米田のおっさんから聞いたんやけど。浅田にしろ古沢にしろ、言うとる事は同じや。海を埋立るっちゅうて、言うとるだけやんか。青木の爺さんや米原の爺が言うように、町民が潤う計画を考えな遺憾のと違うんかのぅ」
須賀は、父親なら、そう考えていたかもしれないと思った。
「時間、大丈夫なんか」須賀は、待ち合わせの時間が近い。
「おお、そや。そろそろ西崖へ行こうか。大内さんが、もうすぐ来るな」
二人は、嶽下展望台から坂口建設の資材置場へ向かった。
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