エピローグ

 その日、王は私にあれは嘘であると告げた。分かりきっておることであった。おまけに私に愛の告白までした。そこまでは私も予期しておらなかった。


 王よ、さすがだ、これまで私と共に冒険アドヴェンチャーをなして来ただけはある、と褒めてやりたいところではあるが。


 ただ既に契約書にはサインしてある。何であれ、私は命を失う。ゆえに前々から考えておった言葉を告げた。


 「この愚か者が!」と。


 王はまさにビックリした顔をしておった。驚かしが過ぎたかもしれぬ。とはいえ、何だ、あの女と想ってくれたぐらいが丁度良い。王が私に未練を抱くことは、望むところではない。

 

 私は死神の寵姫になりたいのだ。そう考えるだけで身の内に生じる恐怖に、私はすっかりとろけておった。


 それにやがてはアレクサンドラが来る。私の不在による王の無聊ぶりょうも、あの娘によりなぐさめられよう。王は私ともう睦み合うことはできぬが、しかしこれまで十分なした。しかも人の何倍もである。


 王子ボリスに至っては何も言うことはない。あのアレクサンドラが自らのものとなるのだ。我が子ながら、嫉妬と羨望さえ抱く。とはいえ、どうあっても、私のものとなりえぬのは承知しておる。何より、アレクサンドラがそれを望まぬ以上、致し方ない。


 一つ心残りは、その当のアレクサンドラ。ただあの娘とも十分に時を重ね、伝えたきことは言葉に乗せた。まだ若いゆえ、全てを理解したとは想えぬが。ただ、私でさえ、あの娘のとりことなったのだ。どうして王や王子ボリスがあらがい得よう。あの娘に敵はおらぬと言って良い。


 私はしばしば恐怖に呑まれつつあった。それに不安が紛れ込んだ。なじみとなった者たちと離れるゆえであろう、悲しみもまた。しかし、その度に希望と期待が押し返した。その千変万化せんぺんばんかする感情のもたらす悦楽の中で、私は死神の到来を待った。




 ただその夜、私の下を訪ねたのは、死神ではなく愛の神であった。そして、私は愛の神と契約を交わし、そして、こと切れた。



 (Victoria編 完)




 どうも。最後までお読みいただきありがとうございました。


 姉妹編(またいとこ編とも)が次に控えております。投稿はまだ先になると想いますが、これも併せ楽しんでいただければと想います。実はその次もあったりします。


 作者も話が広がって行くのは楽しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄―その愛と死の応酬 ひとしずくの鯨 @hitoshizukunokon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ