第57話 復活のスケルトン

『ファイネ・バランタイン! ただいま復活いたしました!』


『……』


 いきなり小部屋に響き渡った声に真澄たちは驚きで固まった。


『あら?』


 人の形をとって立ち上がったファイネは、反応の薄さに首を傾げる。


『師匠!』


 一拍置いて跳び上がった塩浦がそばに寄り、両肩に手を置いて身体を揺らした。


『やっぱり無事だったのね!』


『は、はい!』


 先にハイテンションを見せられた真澄と菊姫は冷静さを取り戻し、骨を鳴らして喜んだ。


『聞きたいことはいっぱいあるんだから! ほら、座って座って!』


 ファイネは勢いそのままに座らされて視線を一手に受ける。


『今さらになるけど、少しでいいから反応が欲しかったな』


『ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。最低限、戦いに必要な魔力を蓄えるため意識を手放す判断をしてしまい……』


――意識って、さらっと怖いことを……。


『起きてくれたんだからいいのよ! 一番気になるのは黒い鎧を着てたのが師匠かどうかね』


『あれはワタクシです。この身にかけられた魔法を精一杯の魔力で一時的に解除しました』


『そんな方法があったのか……』


『おそらくできる、という勘に近い感覚を持っていたに過ぎないのですが』


 勘と表現しながら実戦でやってのけた事実に三人は感心する。勘や不確定な要素を良しとしない探索者だった塩浦は、さすが師匠と呟いた。


『元の世界だと騎士は印象的な格好なんだな』


『う、それはですね……』


 ファイネは一瞬言い淀んで続ける。


『通常の騎士は一般的に白を基調とした鎧を着ています。ワタクシの鎧が風変りなのには理由がありまして……』


 何か言いにくい事情があるのは態度でわかるものの、興味が先行し誰も話の続きを止めなかった。


『どこからお話すればいいのか難しいのですが……まず、騎士は人々から尊敬を集める存在で様々な問題ごとに対処します。その中でもバランタイン家は騎士の名門と称されて国からの信頼も厚く……』


 頭を右に左に、ファイネは内容を考えつつ先を話す。


『でですね、世の中には悪い人がいて取り締まらなければなりません。騎士の役割でもあるのですが、荒事に傾きすぎると人々が持つ印象に影響が出てしまいます』


――周りからのイメージが大事なのはわかる気がする。


『そこで荒事を専門にする騎士が生まれました』


『その一人がファイネか』


『その通りです』


 ピンときた真澄だけが頷いて納得する。


『ワタクシたちは基本的に単独で行動し、騎士の中でも強い権限を持つので自らを律する必要があります』


『信頼ある騎士が任される役割なんだな』


『さすが師匠ね!』


 雑な相槌に家の存在があってこそだと、ファイネが頭を上下に揺らした。


『それで鎧の話になりますが、ちょっとした威圧目的で始まりました。悪いことをすれば黒い鎧を着た騎士が来る。骸骨などを模した装飾は恐怖の象徴的意味合いを持たせるためです』


――聞いてみると単純というか、わかりやすい理由だったな。


 真澄は知識の中にあるダーク色が強い騎士でなかったことに安堵する。


『その……暴力沙汰、と言うのでしょうか。汚れ仕事を主に担当していて実際は尊敬からほど遠くてですね。皆さんが思われている、ではなく身勝手にワタクシが思っている? 自分の評価とは乖離……いえ、そうなると変に自惚れているような……?』


 慌ただしく両手を動かす姿に真澄たちは顔を見合わせた。


『師匠は師匠よ! 悪人をやっつけてくれるんだからヒーローでしょ!』


『助けがなくて化物と出会ってたら、俺たちは死んでたな』


 ファイネが歯切れ悪く話していた訳を知ってフォローを入れる。出会ってひと月、会話を重ねて誠実さは伝わっていた。


『メティルだっけ? 悪いやつはいなかったと思っていいのかな』


 鎧の件が終わると菊姫が気になっていた話を切り出す。


『このダンジョンにはいません。ですが、異形のいた場所はおそらく研究室として使っていた場所に違いないでしょう。壊した壁の奥にあった部屋には転移魔法陣の形跡がありました。懸念点はメティルがこちらの世界に来ているかどうかです』


『来てたらここに戻ってくる可能性がある?』


『転移魔法陣自体は壊れていたので起動しないはずです。ただし、元々このダンジョンにいたのであれば他の場所へ移動する手段を見つけたということ。その場合はどのダンジョンにいても危険があり、もしダンジョンの外にまで出ていたならどこが安全かの判断は難しいと思います』


――この世界にいたらお手上げだ。


『あ、ちなみに骨の姿を解除する罠って……』


『残念ながら見当たりませんでした』


『なるほど……魔力を消費して元の姿に戻るのはごく短時間と考えていいのか?』


『そうですね。なので、しばらくは研究室にあった書物を調べてみます』


――そこに人をスケルトンにする方法が書いてあればヒントになるんだな。


『読み終わった本が安全ならもらってもいいかな?』


『はい、構いませんよ』


 思いついたように聞いた菊姫に、真澄が疑問の視線を向ける。


『ダンジョン管理委員会に送りつけてやろうと思っただけ』


『ああ、前は反応がなかったんでしたっけ』


『価値のわかる人間がいるといいけどね』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

庭にできたダンジョンにいるスケルトンの様子がおかしい 七渕ハチ @hasegawa_helm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ