第4話 異世界の影
『人間の姿で会ってくれていたら、いつでも話を聞けたんだけど』
――名前的に外国から来た人だろうか。
『実はですね、ワタクシの姿は特殊な魔法によるもので時間が経っても元に戻りません』
『それはまた……』
通常の魔法はダンジョン内で採取可能な魔鉱石を加工した、ジェムリアを用いて使用する。効果は様々で見た目は宝石のため探索者以外の間でも取引が活発だった。
『ダンジョンも出られず困っていました。魔法の扱いに長けた方を連れてきていただけると助かるのですが……』
『そう言われてもなぁ』
そんな知り合いなど心当たりすらないが、スケルトンの姿でいることが辛い状況なのは想像できる。何か力になりたい気持ちはあった。
『もちろん謝礼はお支払いいたします! ルクスラ王国のバランタイン家と言えば伝わるはずです!』
『ルクスラ……?』
真澄は初めて聞く名称に首を傾げる。
『ご存じありませんか? 大国のひとつなのですが……』
『いや、アメリカとかロシアならともかく……』
『アメリカ? ロシア?』
今度はファイネが首を傾げた。真澄は会話の噛み合わなさに、ダンジョンというつい十年前までは空想上のものだった場所で非現実的な考えに思い当たる。確認のため、骨の手でポケットをまさぐりスマホを出して見せた。
『これが何かは?』
『いえ……』
骨の操作では無反応なスマホを、タッチペン代わりのクリーナーストラップで様々な言語を表示していく。しかし、ファイネは首を振るばかり。そもそも、庭にある未登録のダンジョン内に誰かがいるのは奇妙だった。
『ファイネは別の世界からやってきたのかもしれない!』
突飛ながら興奮気味に話す真澄に対し、ファイネはスケルトンなりにポカンとした表情を見せる。
地球と呼ばれる星に突然ダンジョンができたこと、今もなおダンジョンが増え続けていること、元々ダンジョンが異世界にあってそこにいたファイネが巻き込まれたのでは、という推測等々をまくし立て気味に話した。
『不思議な現象があるものです……』
『とまあ、ルクスラ王国には行けず魔法に精通した知り合いもいなくて』
『とりあえずダンジョンを探索するほかありませんね』
ファイネは全てを納得したように考えを切り替えた。
『……このダンジョンが異世界に通じている可能性はあったりする?』
『だといいのですが、まずは元の姿に戻る方法を探してみます。罠があるダンジョンでは、逆に癒す場所も時には存在します』
慌てず今後の対応を決める姿勢に、真澄は徐々に冷静さを取り戻す。
『謝礼は当分後になってしまいますが、何か武器をいただくことはできないでしょうか』
『ファイネは戦いに関係する仕事を?』
『騎士をしていました。剣と盾の扱いは得意です』
その単語に再び沸く興奮を引っ込ませ、これだと閃いた。
『もし、武器を用意する代わりに剣の使い方を教えてと言ったらどうかな』
真澄も平均的な高校生男子。日常になったダンジョンに異世界の影が見え隠れすると前のめりに拍車がかかった。
『この姿では本来の力を発揮するのが難しく基本的な動作が主になりますが、それで良ければ構いませんよ』
『見込みがあったときにはダンジョンの探索も一緒にとか……』
『はい、ぜひ頼らせていただきます』
思いがけずに強い味方が現れて、真澄は心の中でガッツポーズをした。その後は罠の効果が切れるまで世間話を続ける。
『スケルトンになってどれぐらいの期間をダンジョンで過ごしてるんだ?』
『時間の経過が曖昧ではっきりとは覚えてませんが、短くはないと思います』
――こんな暗闇に、しかも一人でか……。
自分本位な面が先行したものの、同情心に似た気持ちが強くなった。
『食事はどうしてる?』
『不思議とお腹が減らないんです。スケルトンと同じで魔力の供給で済んでいるのでしょうか』
ダンジョン内には未知の物質が存在すると言われている。小難しい正式名称とは別に魔力と呼ばれ、ジェムリアと反応し魔法が発動すると考えられていた。魔力はダンジョンの外に漏れない性質があるため、地上では魔法を使えなかった。
ダンジョンでの過ごし方などまだ聞きたいことはある真澄だが、軽率だと気づいてからは何気ない会話に終始する。
――ファイネが人間の姿に戻った時は色々もてなそう。
「お?」
突然身体にむず痒さが走って、真澄の姿が無事に人間へ戻った。
「カタカタカタカタカタ!」
「ん? ってそうだ、人間とスケルトンか。でもこっちの言葉は……いや、異世界の住人に日本語で話して理解できるわけがなかった」
――スケルトンの姿で言葉の壁を超えられるのは便利だな。
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