第5話 剣術は自由だ

「刀はカッコいいけど耐久力が低そうだな」


――買うなら西洋タイプの剣か?


 家に戻った真澄は夕食を済ませてスマホで武器を検索していた。


 オンラインでダンジョン用の武器を売る店は多い。ただし、法律には従う必要があるため品揃えに一定のラインはあった。


 ダンジョンでの使用目的に限り特別な措置がなされているものの、販売時に刀剣は刃を潰さなければならず銃に限っては厳しいままだ。


「うげ、刃部分が潰れた剣で十万を超えるのだけって……」


 武器の性質を持つには単純な模造刀などと違って頑丈さが必要不可欠。当然、値段は相応で探索者の人口に限界もある。大量生産で値段を下げるまでには至っていなかった。


――武器を用意するとは言ったけどこれは……。


 生活費は余裕を持って渡されているが、そこに手を付けるべきではないと首を振る。結局、真澄は代わりになる物を家で探すことになるのだった。






 翌日の日曜日。真澄は荷物を背負って朝からダンジョンに入る。途中、ファイネとは出会わずに罠のある場所へやってきた。


「人間に戻るとわかっていてもな……」


 緊張に身体をこわばらせながら右足を前方に伸ばして地面を踏む。ダンジョンでは修復力が働くため罠は元通りになっていた。


「もう少し向こうか?」


 じりじりと一センチ単位で確認し、ついに地面が崩れて穴ができた。


「よし……」


 その穴を慎重に下りると煙が充満する。真澄はスケルトンへ二度目の変身を終えた。


――まさか、自らスケルトンになる日が来るとは思わなかったな。


 穴を這い上がってダンジョンを進んだ先の小部屋に入ると、色違いの作業服を着てライト付きのヘルメットをかぶったファイネがいた。それらは他にスケルトンがいた場合を想定し、間違えないよう真澄が与えた物だった。


『来たぞ』


『マスミさん!』


 ファイネはあごの骨を振動させて歓迎する。


『とりあえず武器を見繕ってみた。でも今はこんなのしか用意できなくて……』


 真澄は荷物を置いて押し入れに眠っていた二本の木刀を取り出した。


『細い木剣ですね』


 そのうちの一本を受け取ったファイネは骨の手で器用に握り、軽く振った。


『っ!』


 空気を裂く音に真澄は驚く。


――木刀ってこんな音がするものだったんだな……。


『武器としての強度はありますね』


 土産屋で売られている木刀とは違って変わり者の祖父が収集した品物。柄の部分にわざわざ銘が彫られた気合の入る一品だった。


『魔物の相手はできると思います。贅沢を言えばもう少し重さがあるといいのでしょうか』


 真澄はもう一本の木刀を握るがそれなりの重さを感じた。


『……剣の使い方を教わる前に鍛えたほうがいいかもしれないな』


『もちろん体力や筋力は大事ですが、力の抜き方と入れ方を習得すれば細身でも十分な立ち回りは可能です』


『な、なるほど……』


 騎士と理解したうえでは説得力しかなく素直に頷く。


『スケルトンの状態でしか言葉が通じませんのでまずは聞いてください。初めに握り方ですが力の入りやすい方法で構いません。流派は様々ありますが固執すると握りの時点で相手に情報が筒抜けになってしまいます。逆手に取ることも可能ですが初級者の内に考えることではないでしょう』


『……情報っていうのは攻撃手段とかだと思うんだけど、魔物に伝わるもの?』


『あ、魔物相手にはそこまで考える必要はありませんでしたね』


『……』


――異世界だもんなぁ。


 真澄は明らかに人を対象にした教えを聞いて、ファイネに修羅場を潜り抜けてきた背景を見た。


『当分は剣を両手で握るのが無難です。左手と右手の間隔は好みで決めてください。臨機応変に握りを変更するのもいいでしょう。握る力はできる限り軽くです。そうですね、薬指と小指で握る感覚を持つといいかもしれません』


『軽くね……』


 全てを咀嚼できずにポイントを押さえていく。


『握りが軽いと剣を振る動作が早くなります。そして、当たる瞬間に力を込めるんです』


『それが力の抜き方と入れ方か』


『振り方は上下と斜めに左右を練習すれば事足ります。突きは自信がついてからにしましょう』


『……全体的に自分がやりやすいようにって印象だな』


『何事も自分で考えるところから始まるものです。剣を振った時に違和感を覚えたなら腰の位置や姿勢を意識し、足の運びや踏み込み方を確認します。身長体重、腕の長さや足の長さが人によって違う以上は絶対的に正しい剣の扱い方はありません。ワタクシは剣術に関して、知識を詰め込む必要はないと考えています。技というものもありますが、基本動作を昇華させれば必殺の攻撃になり得ます。魔物を相手にしたときこうすれば楽に倒せそうだ、という発想が浮かんで初めて技に取り組むぐらいがいいでしょう』


 ファイネのまくし立てを受け止めた結果、真澄は自由にやってみろと解釈するに至るのだった。

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