第27話

綺麗な滑らかな言葉がスッスッと頭に入ってくる

温かなミルクのお陰か少し〜頭がハッキリした


意識は思ったよりしっかりしている

クリストファーはホッとした



「判りました」


がーー…内心焦る

『~直ぐにでもーー…国の誰かと話さなければ……!』

 

ゾロリ嫌な予感が脳内を駆け巡る

 

『Dー01の御父上が心配だ

暗殺の手が回り手遅れになる前にっ!』


「〜御父上様の御身は心配しなくても宜しいですよ?」

しょぼんと俯く頭の上からポンと声がかかる


『え?』

ズバリと心の中を読まれた気がし心底ギョッとした


驚きで〜つい手からつるりカップが落ちそうになり!


「おっと」


ところが、すかさず〜素早く大きな手が底部に添えられ危機は回避された

中身は一滴すら零れてはいない


目の前の相手の整った貌の動きは平然そのものだ


「お手に火傷はなされませんでしたか?王子様」

「ーーー…いいえ、貴方の方こそ……」


『この人 一体何者なんだ?』

〜……忍者か?


不審そうな視線を察したのか『長身の男』はニコリと滑らかな声で話し、躊躇わず右手をヒラヒラ差し出した


「ホラなんともありません」


『ーー…少し朱くなってるじゃないか!』

嘘をつかれ、軽く見られた様でちょっとばかりムッとする


「これくらい火傷のうちに入りません」

すると優しい言葉と共にニコッと微笑まれた


〜また心の内を確実に素速く読まれている

益々面白くない、腹立たしいとクリストファーはイラッとする


にしても……

『どうして〜左手の中指に小さな変形があるんだろう?』


何となく筆記具の跡な気がするーーー……?


右手にも同じく盛り上がる小さな固い部分が存在し、奇妙なな気がした

が〜

目の前の勢いに飲まれて小さな疑問は直ぐに流され、何処かへ行ってしまった



「ところで〜……そういえば?

まだ私の自己紹介をしていませんでしたね?

順序が逆で〜

遅くなり大変申し訳ございません


私は名前を『ノブシゲ』と申します

この施設での防衛を担当しております

小班を率いる班長職です

今回貴方様の護衛官を任命されました


当施設規約と個人情報保護の観点から、ファーストネームだけであることをお許し下さい 

以後お見知りおきを

ほんの短い間かと思われますが どうぞ宜しく」


「こちらこそ」


穏やかな微笑みを浮かべ、互いに友好の握手に右手を差し伸べた

心のこもる、ハンドシェイク

クリストファーの細い指はぎゅっと大きな掌で包まれた



「失礼します」

2人で交わす会話が話しやすい様、ノブシゲと名乗る〜護衛官という男性にゆっくりと上体を起こしてもらった


『??…』


この時不思議な事に何だか…”やり馴れた感じ”

こなれた手慣れ感がし如何にも、そつが無いのだ


ゴソゴソと背中を守る為、腰や背にフカフカな〜

アレルギー対応の一切の細かな繊維の埃が立たない特殊枕を、よいしょっとノブシゲは適度な場所に差し込む


そんなこんなも細やかに気が利いていて動きに無駄がない

”誰かの介護”をし慣れた人間独特の、滑らかで細やかな気配りが常に感じられる仕事

 

『……? 意外って言うか〜不思議な人だなぁ……』


クリストファーには全てが上手く行きすぎに、ピンと引っかかるものがあった



「これでいいですか?」

「完璧です」



話の接ぎ穂にしようと〜”この国”ジャパンの大和の古い古語で返した


すると打てば響くように、ノブシゲの顔が『ほぅ……?』っと言う様子にゆっくり嬉しげに輝いた


こうなるとこちらも『悪戯成功!』という感じで少し嬉しい



「…そういえばーー……!

王子様はジャパンへの留学経験、ジャパン首都の大学〜それも最高学府での学びがございましたね?

全くもって凄い事です

ここでの言語は連邦英語にしますか?

それともーー……」


「誤解を招く表現があったら、失礼に値しますので”連邦英語”でお願い致します」


「了解致しました」

「こちらこそ」

 

クリストファーの返答に相変わらずニコニコ邪気の無い微笑みが返される

真夏に咲く大輪の向日葵のような光輝く笑顔みに見えた


『……調子狂う

〜……照れちゃうじゃないか』


クリストファーは心の中で小さくボソボソ呟く


ーーーっとそう言えば?!


『彼…… <ノブシゲ>〜〜……という人

ジャパンには確か独特の表記文字があった筈〜?』


クリストファーの頭の中で様々な事柄がグルグル回る

辛い現実から少しでも離れたい〜

肉体が企てる無意識の、『心』を守る防御反応だったのかも知れない


『うーん〜この国の言語で、一体どんな文字を書くのかな?

興味あるかも……?!

表現表記ーーーー確か”漢字”ーー〜だっけ?

まだ多少は覚えてるし


デモデモデモ……!

森での出会いとは随分あんまりにも印象が違うなぁ〜

でもこんな事ってあるワケ??


はっきり言えば全く違う人物……”別人”……!

全然違うよ?!

それってどうしてなのかなぁ〜……?』



墜落のパニックと強烈な孤独感と大型肉食獣ーーー

『熊』に襲われる恐怖に、完全に怯えていた事も大きな理由だったとはいえ

 


『アレは一体何だったんだろう……?』


〜今現在は、息を潜め全く消えているが?


全身から沸々と立ち上る青白い炎〜

『あの気配はただ事ではなかった!』


未だに、ちょっと思い出しただけでブルッと体が震える




気配は……殺気


”妖気”と表現してもよかった


圧倒的、ゾッとする悪魔の様な存在に見えた



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