「城」内部へ

第26話 エピソード3 ノブシゲとの出会い


「あーーーーー…」


「お気がつかれましたか?」


……突然、耳元で柔らかな声がした


『…夢……?…だった?……』


クリストファーは、自分がいつの間にかグッスリ眠っていたらしい事にボンヤリ気がついた

 

カタリーー……

影が差し人の気配がした


『??』


おそるおそるーーーー顔をそちら側に向けると

クリストファーが今まで微睡んでいたベッドの側に、一人の男が居た


座っている場合、背の高さは普通わからないが、彼が背が見上げるように大きいことはわかっている


決して見知らぬ男では無かったからだ


〜あの樹海で出会った、ブラックコート着用の見上げるような長身の男

絖光る素材の光沢から多分きっと、おそらくあれは防火用特殊繊維製だろう


がーーー今は、見るからに清潔そのものの!

糊とプレスがパシッと美しく綺麗に効いたユニフォームに着替えていた

 

名も知らぬ男は簡素な簡易式折りたたみ椅子に座り、ジッと長い腕を絡め…

緩く腕組みをし

ウツラウツラ眠っていたクリストファーを見下ろしていたのだ

 

……いいや”違う”

 

<見守っていた>


『……』


無言の身じろぎにキュッと微かに椅子が音を立てた



「どうぞ王子様」

 

『長身の男』はスルッと音がしそうな程悠然と腕組みを解き、にっこり悪戯っぽく笑うと


今度はヒンヤリと…!

心地良い冷却ジェルのタップリ入った柔らかなパットを、金属製の容れ物から手に取り

クリストファーの熱を持つ腫れぼったい瞼の上に乗せてくれた


どうやら、サイドテーブルに置いてあった医療用金属製トレイに

予め首尾良く手配し乗せられていた物らしい


……まるで見越した様に用意されてたとおぼしき品


『うわーーー…何これ気持ちいいッ』


鬱々とした心

疲れたモヤモヤが一気にキュッと吹っ飛ぶ爽快感


謎の長身の男は、彼の驚く反応にクスッと明るく笑う


そのままーーーー優しい声色でこう話し出す




「私は一応語学には自信があります

 

ですから王子様がお好きな、自分が喋りたい言語で遠慮せずどんどんとお話下さい

私の方が貴方様に合わせます」


「え?」

「構いませんから」

上品かつ穏やかに その初対面の謎めく東洋人の男は続けた


非常に流ちょうな〜流れるように美しい発声と発音だった


銀河連邦加盟惑星の数多の星々や故郷コロニーDー01のでもれっきとした公用語の1つとして認知し尊重〜扱われている主要言語

”連邦英語”だった


『何でかな?』


シンプルな物程、どんな場合も気配りや美学が際立つ

『素敵ーー……』


「味も素っ気も無い」と言われる〜単純明快な構成の言語なのに、何故か…とろり耳に優しく、美しく聞こえるのが不思議


思わずクリストファーはボーッと聞き惚れてしまった


夢がまだ覚めていなかった彼にとって、堪らない時……



「白目、真っ赤ですからね? 既に目を酷使しすぎですよ?

ジェルを当て〜今はゆっくり充血を取った方がいい」

 

『なんだろう 

ーーーーー何か強烈な既視感ーー……

僕は長い夢を見ていた様な気がする』


「……」


「余り無理をされると必ず反動が来ます

〜後々辛くなりますからね?」


「そうでしょうか?」


「ここは特に、不慣れな方には辛い特殊時空空間です

ご自愛なさる方が賢明です」


穏やかな優しげな労る声のトーンが、痛みささくれた心にしみた

思わず涙腺が決壊しそうになったがグッと堪える


グスッとーーー鼻を啜る音だけは誤魔化せなかったが



ーーー…


〜…


クリストファー王太子に謎の『長身の男』は〜カップ1杯のホットミルクを脇のサイドテーブルから再び取り上げ、優雅な手つきで差し出した


「どうぞ」

「……?」

 

「今日 何も口になさっていないでしょう?

幾ら若いと言っても限度があります、ホットミルクをこちらでご用意致しました

乳製品等に対するアレルギー反応が無いと言うことでしたがーーー

如何でしょうか?」


「……いただきます」

「ではどうぞ」


彼から差し出し出されたホットミルクは、嘘の様に、信じられない程に美味に感じた


『…え 何で??

ちょっと手を加えた〜温めただけのミルクが?

どうしてこんなに美味しいの?』


ーーーーいきなり驚きの強烈パンチ


しかも正に丁度いい〜ジンと舌に優しげな適温だった



『美味しいー……』


ホンノリと

フワンと


微かに混ぜられた、何かの香辛料〜

スパイシーでありながら、どこか郷愁を誘う〜甘いホッとする香りが鼻腔をくすぐった


『〜微かな香り

心が和らぐ甘さ

でもーー…懐かしい味……!』


彼は故郷の料理長の優しい味を思い出した

 

 

「ハニーを少々と……

くるっとシナモンスティックで僅かに香り付け致しました」


「ーーーぇ?ひょっとして君が?」


クスッと小さく笑われる

つまりーーーこのミステリアスな男性が個人で工夫した事なのだと漸くわかる


てっきり……専任の調理の人間が配合したと思っていた



『ひぇ〜そうなんだーーー!!

何か凄いぞ この人は』



「ーーー気分が落ちついたら、この度の事情を聞きたいと『シロヌシ』が……

あぁ こちらの施設・総責任者の『通称』です

 是非貴方と直接お会いしたいそうです」

 

ーーー優しい声での腰の低い、丁寧な依頼



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