7−5

上空から落下する緊急用脱出シャトル……

飛行しながら吸い込まれる様にーーー……


グリーンの絨毯

眼下をビッシリ覆い尽くすマウントフジの森ーーーーー…


銀河でも有名な霊山、雄大な富士の裾野に広がる広大な樹海に潜り込んでゆく


ガゥンーー……!!


ーーーー途轍もない衝撃


意識が飛んだ




目の前が真っ暗だ






ーーーーーーーーー……


ーーーーー……


ここは一体どこだ?




左右どちらを見渡しても、どこもかしこもうっそうと深い木々ばかりだ


それでいてほんのり薄明るい


これだったら紫外線の影響を肉体が受けずに済むかも知れない


クリストファー王太子は自嘲気味に乾いた笑いを浮かべた


まだ運が良かったとでもいうのだろうか…?


 

ブスブスと煙を上げるカプセルから漸く出ると、体中の関節が悲鳴を上げる

ーーーというか足が立たない


暫くへたり込むと、ボーーーッと思案にふける


汗と涙で額にかかる 銀色の髪を振り払った


僕の菫色の何でも眩しいと我が儘を言う両目もーーー

 

『これならば安心だ』ホッと息をついた



ジャパンにキャシーと共に訪れたのは

<ハネムーン旅行>とは別に、とある人物に極秘裏に会う為でもあった



この国の『城』〜

特殊収容施設にはかつて王太子だった伯父が収監されている


父の兄君の”罪状”は『父王殺害』


施設の正式名称はわからない

極秘収容施設

銀河有数、究極の監獄……!


通称『城』


シローーー……

隠語で呼ばれている特殊建造物に収監されている為

細かい詳細や位置情報も決して自分には教えてもらえなかった


ただ~……お時間のある際

Mt.フジの樹海まで、誰にもわからない様に

 

『目立たぬ様にいらっしゃればわかる』と



但し所在地〜正確な座標については

「国王様でない以上お知らせする事は出来ません」


~お父上様が存命である以上

王太子様である貴方様は知らなくても良いことですよ……?〜



何とも失礼千万

無礼な「それ」~が施設側からの責任者、城主~シロヌシからのクリストファー王太子への正式回答だった


ーーー舐められている

疲れ果てた痛む体に沸々と怒りが満ち、更なる悔しさに涙が零れる



その時だった

クリストファーが、虚ろな心でぼんやりと思索にふけっていると、後ろからガサリ

突然薄気味の悪い音がした


『惑星デメテルには肉食の植物が数多く居るという

ーーーこの星はどうだろう?』


クリストファー王太子は恐れおののいた



……熊~クマだ!

きっとそうだ!!


大型の肉食の獣が年間何人もの人々を生きたまま食らうと……!!


コロニーで地球自然科学研究の第一人者の教授に聞いて、思わずガタガタ震え上がった〜熊の生態に関する話を急に思い出した

 

クリストファーは慌てて立とうとするが、益々脚に力が入らない


血が逆流し心臓が早鐘の様にドクドク言うのを感じる


最後の力を振り絞る様に這いずり、何とか下半身に力を込め強引に体を反転すると


 

わずかな木漏れ日でボゥッと薄明るい木々の間に

……ソレはいた




頭から踝近くまでとどく鈍い沈んだ光を反射する真っ黒なコート


同じ素材に見える細身のブーツ


顔は口元までフードの下に隠れているので全く見えない


ただ白磁のような白い肌と、左右対称のふっくらと形の良い口元だけが覗く



思わず喉の奥がぐううと鳴る

引きつったように恐怖で舌が石の様に動かない


一体どこから現れたのか?


思えば……!!

移動用の乗り物の重々しい動力の重低音なぞついぞ聞いていない


この森に棲む禍々しい死霊や、物の怪のたぐいなのだろうか?


 


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