7−4

壁面の『放出スイッチ』の<保護ガラスカバー>

『万が一の時のために』の設置

……最後の命綱を


〜あらかじめ

直ぐ近くの壁面に頑丈に括り付けられた斧で力一杯割った〜

その時、彼女が立てた『大きな音』はクリストファーには聞こえなかった



何故ならばカプセル内は本来完全防音だからだ


ーーーーーー聞こえるわけは無い


でも何故か不思議な事に

 

にもかかわらず

ーーー彼には……


愛するキャサリンの声だけはハッキリと鮮明に聞こえた気がしたのだーーー


愛しい大切な人の〜 心より信頼する妻の唇の形が


「さようなら」……



その時、ゆっくりとそのままの形で動きを止めた




シャーーーッッッツ!!



ハッチから轟音と共に彼を内に納めた飛行シャトルが高速で射出


〜と同時に…!


特殊超合金製の扉が無残に真っ赤に丸く〜大きく焼け爛れ、ドロッと縦型の無残な穴を開けた



バラバラッと一気に暴漢がなだれ込む……!

立ちすくむ姿をザッ!…と 取り囲んだのが斜めに見えた


巡洋艦を襲った、他を制圧し尽くした〜

人工知能搭載の軽量化最新型武器装着のバトルスーツ着用ー暴漢達は

ぬかりなく……!!


完全なる重装備で全身覆った…『長身の男』を先頭に 

 

本当に最後の砦だった小部屋をとうとう攻略したのだ


 


「お願いだ逃げてくれっっ!」


強圧で射出された飛行シャトルの<チューブ>の中で、王太子は必死に妻キャサリンに向かって叫んだ


 

ごうごうと鋭い凄まじい重力の威力に〜

たまらず蛙の様に無様に全身がクッションへ押し潰される


思わず顔を歪め奥歯をギリギリと食いしばった



あと少し

あと少しで、ジャパン国際宇宙空港へ到着だったのに


懐かしい……少年少女時代を、輝く青春を共に過ごした土地にーーーー

君とーーー

2人そろって行けるはずだったのに



激しく独楽の如く回転しながらも目を一切閉じなかった





ーーーー最後に見た映像は 何年たっても決して忘れる事はないだろう

抜けない棘のようにクリストファーを苦しませ夜ごとの悪夢に見るだろう


この世で彼の命が尽きるまで


 

遠く去りゆく愛する人の後ろ姿がーーー

フラリと大きく揺れた

 

ガクリと 前のめりに膝をついた



美しい長い髪を乱し 床にくなりと崩れ落ちた妻

みるみる彼の愛しい妻の着衣は赤く染まっていった




「ーーーーー!!」

 

慌てる様に膝をつき

ぐらぐらする頭部を腕に抱え込みーーーー

 

細い首筋に顔を埋め、細いしなやかな体を全身でひし、とかき抱く暴漢リーダー

〜長身の男の姿


クリストファーにとって見覚えのある体つき

見間違えるわけがなかった



『そう

今回の襲撃リーダーの長身の男

あの男、彼〜

ウィンストンを自分は知りすぎている


かつてーーーー共にジャパン首都に留学をし

国の未来を〜

D-01の行く末を大真面目に熱く語り合った大切な友人を!』



ーーーー自らの半身とも言えた大親友の事を




それが一体全体、何がどう間違ってこうなってしまったのか

 

ーーー拳をそこら中にガンガン打ち付けて慟哭した

  


息が上がって疲れ〜力尽き動けなくなるほど暴れた



ーーーー自分は呆れかえるほど無力だと思った

 




     惨めだった

 





 

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