第23話 秘密の作戦会議
カノープスとの別れまであと一日と迫った翌日。ヤコはあるメンバーを集めて服飾室の部屋を借り切っていた。
「点呼番号、にぃー」
「7!」
「何なのよこの脈絡のない面子は!?」
「ええと、ちょっと聞きたいことがありまして……」
(非番で暇してそうな皆さんを招集しました)とは言えず、心の中でだけ付け足す。
何よ? と、片方の眉を吊り上げるミミカに向けて、真面目な顔を取ったヤコは尋ねた。
「イツさんの事なんだけど、私が入る前って彼女がコアの位置を見つけてたんだよね? どうだった?」
「どう、って言われても」
視線を合わせた三人は「ねぇ?」と、当然のような顔をする。代表してナナが大きく手を上げた。
「すごかったよ。そもそもコアを見つけられるような攻略法を作ったのがイっちゃんだもん」
「観察眼の鬼だよね。フォーマルハウトの損傷が少ないのは間違いなくあの子の力もあってのことだよ」
一歩退いた位置から観察し、的確にコアの位置を割り出す。その能力は群を抜いて高いと言う。
「なるほど、それなら充分やっていける……」
「それがどうしたってのよ? いい加減本題に入ってくれない?」
一人でブツブツ呟くヤコに、ミミカがしびれを切らす。よし、と決めたヤコは計画を一段階進める事にした。
「本人を呼んでくるので待ってて下さい」
***
「なぁにが『待っててください、キリッ』よ、結局アタシが見つけてんじゃない!」
「ミミちゃんいやぁぁ、髪ひっぱんないでぇぇ」
30分後、隠れ回っていたイツのおさげを掴んで服飾室にミミカが戻ってきた。カッコつけて出て行ったはいいが、本人がまるで見つからず途中で捜索要請を出したヤコは面目丸つぶれだった。
「ごめん……イツさんもすみません」
「あぇ、ヤコちゃん? どうしたの、明日にはカノープスに行くんでしょ? 支度とかあるんじゃないの?」
ズレた眼鏡をなおすイツは、もうすっかり落ち着いていた。昨夜見せた弱さはどこにもない。
だがヤコは、それが表面だけの物と気づいていた。最初から全部話すために着席を促す。
「実は……」
「ハァ!? このドンくさいイツがアキトの幼なじみぃ!?」
話を聞いて一番に反応したのは、やはりミミカだった。素っ頓狂な声を上げた彼女にヤコは苦笑を浮かべる。
「ドンくさいって、ミミカちゃん言い方……」
「昔馴染みだから向こうにくれてやろうっての? いやぁよ、イツはこの船に必要じゃない」
ふん、と鼻を鳴らしたミミカは、腕を組んで尊大に言い放つ。必要と言われたことで、自信を喪失しかけていたイツは感激したように手を握り合わせた。
「ミ、ミミちゃぁぁん、あた、あたし、役に立ってたのぉ?」
「当り前じゃない、ええい泣くな!」
びええと泣きつく彼女をミミカはうっとおしそうに引き剥がす。それが落ち着くのを待ってから、ヤコは昨夜から考えていたことを打ち明けた。
「私、思ったんです。カノープスに移船すべきなのは私じゃなくてイツさんだって」
やり方の差はあれど、ヤコとイツが担っている役割は同じだ。さらにコアを見つけ出す能力しかないペーペーの自分よりも、多少は戦闘力のあるイツが行った方が向こうの助けになれるはずだと。
「それにアキトさんも『ハナちゃん』を探してる。出会ったばかりの私より、彼の力になれるのはあなたなんですよ! アキトさんのこと、今でも好きなんですよね?」
見る間に潤んでいくイツの目じりから、涙がぽろっと零れ落ちる。しゃくり上げながら顔を覆った彼女は、かすれる声で問いかけた。
「でも……だって」
そこですかさず彼女の手を取ったヤコは、ジッと見つめ続ける。目を逸らせずにいたイツは信じられないような表情でこう続けて来た。
「いいの? あたしが行ってもいい? その言葉に甘えても……」
「もちろんです!」
笑顔で力強く太鼓判を押してあげる。だが、卑屈根性が染みついたイツはそこからまたズルズルと落ちていった。
「うぅ、でもでもぉ、こんな地味眼鏡になっちゃったあたしを見たら幻滅するんじゃ……」
(あぁぁ、結局そこに戻っちゃう)
苦笑いを浮かべてガクッと肩を落とす。こればかりはどうしようと思ったのだが、それまでのやりとりを見ていた外野がここで乱入してきた。
「あ、楽しそー。協力していい?」
「イっちゃん改造計画の巻!」
ニアとナナだ。にんまりと笑った二人はあれこれ計画を練り始める。
「要は自分に自信を持たせりゃいいんでしょ? 女の子ってやっぱ見た目から?」
「コーディネートはナナに任せて! 街から拾ってきたコレクションがいっぱいあるんだっ」
「メイクはミミっちに任せるとして、後は髪型か……スタイリスト志望のコが船内に居なかったか名簿借りてくるよ」
「たいちょーがそんな事で貸してくれますかねぇ?」
「へーきへーき、隠し場所知ってるし」
「わーお、さすがニアちん」
慌ただしく出ていく二人を見送り、ぽかんとした顔のイツは呟く。
「どうして、あたしなんかの為にそこまで……」
「あーもうっ」
ここで、彼女の正面に立ったミミカが、怖い顔をしてイツの頬を両側からバチンと挟む。強制的に視線を合わせると諭すようにこう続けた。
「昔のハナちゃんとやらに戻りたいなら、その卑屈根性から捨てなさい! その為にアタシたちがお膳立てしてあげるっていうのに、張本人がそんなことでどうするのっ」
「みみひゃん」
「……まずは、うぶ毛処理ね」
パッと手を離したミミカが、メイク道具を取りにすっ飛んでいく。自分もツクロイを呼んでこようと歩き出したヤコの背中に、焦ったような声が掛けられた。
「あ、あのっ、ヤコちゃんほんとにゴメンね。あたし、あたし、なんて言ったらいいか……」
いじいじと指先を合わせる彼女にクスッと笑う。次に目を開けた時、ヤコはどこかスッキリとした表情をしていた。
「私のこと羨ましいって言ってましたけど、私もイツさんが羨ましいです。だってみんなにこれだけ愛されてるじゃないですか」
ポッと顔を赤らめるイツを見て手をパンと一つ叩いた。
「さぁこの話はおしまい! 明日のお別れまでに完璧に仕上げますよ。協力しますから頑張りましょう!」
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