一七 チートと食事は紙一重

「実は“いせかい”というのは“せいかい”のアナグラムなんだよ!」

「な、なんだってー……そもそもなにが正解なんだよ」

「転生に正解なんてないんだよ」

「テキトー言ってるだろ? ノリだけで話してるよね?」


「逆から読むと“イカ星”なので塗料をぶっかけあってヌルヌルするゲームに転生している可能性はワンチャンある。ふふん」

「言い方注意して! あとなに勝ち誇ってる感じなんだよ」

「むしろガ◯ホコってるけど?」

「ああ、そうだね……ってねーよ!」

 ユウの異世界はエキセントリックにすぎる。


 ということで本日は我が家のキッチンからお送りします。なぜかってお互いの家族が出掛けちゃって、またふたりでご飯を用意しなくてはいけないのもあるかもしれませんから。などといいながら雑談に興じているのはいつものことなんだけど。いつもながら居心地良すぎて平常運転ですね。


「こちら、主食のピラルクーと副菜の煽りイカです」

「なぜか、そのイカに苛立ちを覚えるのだが……」

 コックコートとコック帽を着用しているから、そうゆうことなのかなとは思っていたけれども、アナグラムどうこうから食事に結びつけてくる強引さ、うん、嫌いじゃない。あと主食は穀物関連ではないのか。


「まぁまぁ、せっかくなので食べてよー、これでも料理で三人はヤッてるからね。ご満足いただけるとおもうよ」と空のお皿を目の前に差し出してきた。このよわいでままごとをやるとは思わなかったよ。

「なんてものを食わせようとしている……」

 まさかエース◯ックみたないダジャレじゃなかろーな。


 生きる上で食事という要素は欠くことのできないファクターではあるけどね、それは別世界であったとしても栄養の補給手段が経口での食事である限り避けられないと思うんだ。

 それを考えると、本当に異世界ってどうかしてるんだよね。不味いまま停滞していることなどあるのだろうかと、現代人の感覚にあっていないとか説明されるけど、現地の人がその状況をよしとしていたからこそ料理が進化していないと思うのだ。

 地球では命がけで香辛料を求める人が歴史を作ったわけだしなぁ。この辺は深く考えるとドツボに嵌りそうだな。


「ギャグマンガ的な食事というのも試してみたいじゃない?」

「いや、ボクはむしろ積極的に遠慮したいけれども。たまに見かける。毒になるヤツとか、爆発するとか、食ったやつが倒れるとか。顔色が紫か青緑になるやつはお話的には面白いけど、実食はご遠慮したい」


「食べ物と毒は紙一重だから」

「なに、これが真理ですみたいな感じなんだ」

「大切なことだから、ちゃんと考えて! どうやったら完成したご飯が紫か青緑になったり、爆発したりするとおもう?」

「大切とは? 普通でシンプルなのが一番だよ?」

「やっぱ絵の具かなぁ」

 ユウさんや、その頭にはなにか得体のしれないものでも詰まってるんですかねぇ。


「いややめろよ。それは難しいんじゃないかなぁ。色味は表現しないでいいものだと思うな。追求するなら味にしてほしい。むしろ、普通に考えていたら、どうしてもそうはならないからな」


「爆発はカップ麺に可能性を感じるのだけれどね」

「そのかやくは爆発しないからな」

「よ、よくわかったね。とりあえず苦渋の選択ではあるけれども、後片付けが大変そうだから爆破は断念をしたよ」

「良い判断だ、ユウにしてはよくやった。理由がちょっと気になるが……」


「爆発はロマンなんだよ」

 おい、なんでドヤ顔してる。

「弾け飛ぶカップ麺はあるいみクレイモアよりたちが悪いわ」

「なんにせよ、ひとくち食べた瞬間に異世界に行けるはずなんだよ」

「異世界イコール彼岸じゃないかんな。過度な期待はするなよ」


「警察に捕まってから、料理を食べた彼が突然、ぜたんですという言い訳は使えないからな」

「うそだぁ~またまた~」

「ごちそうさま。とにかく、別に食べるものはありませんかねぇ。リスクを食っているようで心が休まらないぞ、これだと」


「好き嫌いせずになんでも食べなよ」

「食べられるものだったらな」

「キミはこないだの告白してきた娘は食べなかったじゃん?」

「食べ物じゃないからねー」

 まぁそうゆう問題でもないんだけどね。ボクがユウを好きなことを分かって言ってるからたちが悪いわ。だいたい特大ブーメランに気づけよ。


「もったいないじゃない? お残しはダメなんじゃなかったの?」

「うるせーし。カマキリじゃあるまいし」

「ああ、食べられる方がいいのかな? ドMかな?」

「人は産卵に必要な栄養を同族の牡から得ようとは思わないんだよ」

 生物って不思議だよね。


「ロシア料理なんていうものもオススメですよー」

「え、まともなのあるじゃん。それでお願いします」

「お待たせしました、こちらロシアンチューブ(シンプル)になります。直接、一息でお吸いになってください」

「そうそうこれこれ、握り込むように吸うシステムが新しいよね。どれどれ今日はどれにしようかな~にんにく、しょうが、わさび、からしともみじおろしだね。うん、薬味」


「味はどうかしら?」

「うーん、サイテーの美味しさ?」

「はっきり、不味いっていいなさいよ」


「とりあえず、アレを作るよ。手伝ってね。ほいこれ」

「えっと、泡立て器とボールだな」

「材料を入れていくからかき混ぜてよー」

「え、ネタじゃなくて本当に作るのか?」

 だから今日は台所だったのか。


「ほら、まぜてまぜて!」

 卵の黄身とちょっとの塩と酢を入れたボールを渡され撹拌かくはんを要求される。一心不乱にかき混ぜているそこに、横から少しづつサラダ油が入れられていく。シャコシャコという音がやけに響く。てかコレきついぞ。


「がんばれがんばれ、乳化するまでかき混ぜて」

「えっ」

「どこみてるの! 乳化はちっぱいがおおきくなるって意味じゃないんだよ……やかましいよ!」

 お、ノリツッコミめずらしいな。ほのぼのしちゃうよ。


「これはマヨネーズか」

「異世界の定番でしょ? 一回は練習しときたかったんだよねー」

「生卵はサルモネラ菌とか超怖いと聞くぞ」

「チート舐めんなよ?」

「簡単に伝家の宝刀ぬきやがって。てか腕がパンパンなんだけど」


「がんばれ乳化~がんばれ乳化~いつかはきょ乳化~」

 なんだその歌、肯定しちゃってるしさぁ。気が散るんだよな~。

「そろそろ完成だね~うむ、よくやったぞ二等兵。うでにも乳酸がたっぷりだよ、じゅるり」

「ボクの階級低いな。乳酸は食べ物じゃありませんけどねー」


「とりあえず、ご褒美にこのマヨネーズを使った料理を用意いたしました」

「ほほう、手際が良いな」

「キュウリのマヨネーズ添え、腕パンパン風でございます」

「名前、あとかけただけ」

「チクワとハムの盛り合わせ、大盛りマヨネーズ添えでございます」

「凄いかけただけ」

「ウインナーのマヨネーズ添えないヤツ」

「シンプルウインナー! もうひとしきり素材の味しかしないからな。まぁすぐに食べるし当たる心配もないけどな」


「安心して! 倒れたら一六階級特進しないこともないから」

 大将とかになっちゃいませんかねぇ。

「からの~い・せ・か・い。マヨネーズ食べて大将になったので異世界で地位だけで成り上がりたい、とかどうかな?」

「あーはい、はい。読まれないな」


「とりあえず、飲み物を作ろうかね」

「水分補給は大事だからな。腕の張りが凄いし汗もかいたし、反対する要素がないよ。そうしよう」

「お店の味はどうも難しそうだから、家庭の味を第一目標に変更するよ」

「そうだな、背伸びしないでいこう」


 というなり、コックコートと帽子を脱いだ。……またか。今日は真紅のシンプルなヤツだな。ハツラツとした雰囲気がでていて、可愛いな。太ももにワンポイントでシュシュのようなのが付いてるのがぐっときますなぁ。

「あ、そだそだ。エプロンしなきゃね」

「お、おう」

 あれだな、正面からみると伝説の裸エプロンに見えるやつだろ。しってるんだからな。それから、装備したエプロンはサロンエプロンだった。腰から下をちょっとだけ隠すやつじゃん! もっとえっちな感じじゃねーか。


「どう可愛い?」

「かわいいけどさぁ……」

 おしりフリフリしないでくれますかねぇ。正常な判断力が奪われる不思議な踊りなんだよなぁ。


「ユウさんやなんか変じゃないですかねぇ?」

「え、材料のこと?」

「材料? 動きとエプロンのはなs……ってなんで肉とかジャガイモ、玉ねぎ、人参なんかがあるんだよ!」

「え、飲み物っていったよね?」

「そうだよ~、ご飯はタイマーにしてあるから安心しといて」

「断固として安心感がない!」

「ではさっそく飲み物カレーを作ります」

「あ~理解」


「ということで、キミはかき混ぜ係がよく似合うと思うんだ」

「いや、もう腕がやばめなんだが」

「いいから、いいから。はいこれ」

「ん? なにこれ」

「えーっと乳鉢と乳棒」

 乳関連グッツな、もうそこから離れようぜ。発展性が見当たらないからさ。


「嫌な予感しかしない」

「なにか、不愉快な視線を感知した気がするよ」

「いいから、いいから」

「ソレは私のセリフだから!」


「さっそく配合していくよ。香り付けとしてクミン、コリアンダー、カルダモンとオールスパイスを入れるよ~。ここがカレーの命だよ」

「聞いたことがあるものではあるけれど、どのような用途と効果で入れられたかまったく分からないな。見た目は謎の種とかそんな感じだな。ヌスビトハギとかオナモミがはいっていても疑問にすら思わないぞ、これは」

「クミンがエスニックな感じで、オールスパイスは臭み消しとかになるっぽいよ」


「ボクはひたすらにすりつぶすわけね」

「そうそう、一定のケイデンスでね」

「それは自転車のペダルを回すときのやつな」

「それから色はターメリック、辛さはチリペッパーで調整だよ」

 と新たになんか根っこと言うか草というかをぽいぽい放り込んでくる、まじないに使いそうだな。ぐるぐるぐるぐる。


「比率は7:2:1ぐらいでいいかもねー。やってみないとわからないけど」

「つまり適当ってことね」

 予想以上に本格的な上に、ちゃんとカレーを目指して突き進んでいく感じに驚くけど、この材料を求めて東奔西走するだけでも異世界堪能できちゃいそうだよな。まぁもとを正すと「カレーを食べたい」の一言に尽きるのだが。


「とりあえず、色や形は森で探すときに必要だから、あと同じ形状とは限らないので味も覚えておいてね」

「無茶言うなよ」

 そもそも収穫前と後で色や形状も変わってくるだろうし、ここにあるやつでもすでに炒ってあったりするわけだろ?

「異世界カレー食べたくないの? 転生したらカレーなしだった件でいいの?」

「心が揺らぐな、たしかに」


 ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。閃いた!


「先に転生した人に期待しよう。そうしよう」

「転生の基本は自己完結なんだよ!」

「カレー食べたいなら転生しなくていいじゃん」

「そうもいかないんだよ。カレーは飲み物で魂だから、ないと困るのっ!」


 というか、今日のご飯出来上がるのだろうか、いささか疑問だ。まだルーすらないんだが。

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