一八 罠が危ないからね

「おはよ~ございます~」

「うん夢だな、ボクはまだ寝ている。うむうむ」


「現実はキミの目の前にあるんだよ!」

「なんか、薀蓄あるような言葉だけど、水着の幼女がボクの布団の中にいた気がしたのでね。多分夢だよ、おやすみー」

「おい、幼女ってなんだ?」

「ぐぅぐぅ……」

 もう、しかたないので快眠からの起床につなげて惰眠のコンボを決めよう。これなら労せずして無限ループが組み込めるしな。


「おきて、坊やこっちにいらっしゃい、ここでおねーさんと楽しいことをしましょう?」

「これはなんというか、自分から最も遠いところに着地したな」

「ふふん、ハニートラップだよ。グッとくるでしょ?」

 なんでちょっと得意げなんだよ。自分からトラップいってるし、見える罠にはかからないだろうよ。


「ロリートラップに引っかかる人はヤバイよ」

「おまわりさんこっちです。ってうるさいよ」

 あ、こら、もぞもぞするな。なんかいい匂いがするからね。


「今日はどうした。まだ出かけるには早くないか?」

「起動したみたいだね、ツッコミ脳アプリが!」

「ボクはアプリを立ち上げてからツッコミを入れているわけじゃなんだけどね」

「え、まさかテープでロードしてる感じ?」

「ぴーがーひょろよろひょろ~~~ろろ~、び、がってなんでだよ! ボクはまだ電脳化されてないからな」

 フロッピーですらないとは心外だぞ。


「やばっ、バグったかと思ったよ」

「おまえがな」

「とりあえず、はい、おめざ。これでも食べて脳に糖分を回すとツッコミのキレがあがるから良いと思うよ」

 とか言いながらボクの口にココア◯ガレット入れてくるのやめませんかね。


「まぁ、目も冷めちゃったので、学校行く用意するか。まだ二時間ぐらいあるけどユウはどうする?」

「ふふん、残念でした。私は今日は人生にログインしないから」

「いやいやいや、それにはログインはしろよ」


「えーだったら、ログインボーナスちょうだいよ」

 そんなことを言いながら、ユウは胸の部分まで布団を引き寄せて、肩は肌が露出している状態で顔を寄せてツーショットの自撮りをする……なにそのログボ。ボクにもくれませんかね。というか事後っぽいだろうが、事実無根なのに。ココシガが臨場感アップに貢献してるしさぁ。というかちゅーというログボがボクに付与されるかもしれないと一瞬期待したボクのドキドキにつかったカロリーを返してほしい。


「写真送っとくね。それと今日は私は学校おやすみだから。キミがいない日常なんてログアウト中なんだよ」

 なにそれ、頬が緩むわ。てかログボ取られただけじゃん。いや、撮られた?


「おいまて、なんで自分の目の部分に黒い線がひいてある」

「どれどれ、うわぁ~これは事件性を感じるよ~!」

「さも初めて見たような発言やめろよ。ってまって家族のグループに送ってるじゃないか!」

「あっ」

「あっ、っていったか、うん? この口が言ったか?」

 まじかよ、ニヤついた親とかから、後でめっちゃ説明させられるやつじゃん。回りくどい罠を張りやがって。


「ねぇねぇ準備してる間に“転移するまで帰れま”やろうよ」

「おーい。転移したらおおむね帰れんぞー」

「あっ。盲点だったよ」


「ユウは相変わらず異世界に対して暑苦しいレベルで情熱的だねぇ。とりま頭のネジは現代に忘れていかないようにね」

「当たり前だよ、人生設計の一部だからね。どんどん会話にねじ込ん行くスタイルだよ。温度的にはだいたい六〇〇〇度くらいあるかな」

「ウマくないからな。太陽のようなやつだ。しょっちゅうよくわからないプロミネンスを吹き出すしな」

「じゃ、キミは四〇〇〇度ってとこだね」

「温度差で黒くはみえねーよ」


「そうそう、黒っていえば、家の周りの桜の木の下にさぁ、なんか黒いのがもぞもぞしてるとおもったらね。キャタピラーが何匹もウネッてた」

「うへえー、今年もかよ。もう罠だよなあそこ」

「トラップカード発動! キャタピラーの地雷原」

「やべぇ。踏みそう……そこは通れないじゃん」

「地雷は踏むためにこそある。ドヤっ」

「やだよもう。なんでキリッとした笑顔なんだよ」

「とりあえず、罠が多そうなので剣を振ったら一歩進んでを繰り返せば大丈夫」

「風来人じゃないからな」


「春は芋虫、もぞもぞ黒くなりゆく~、夏はセミ」

「昆虫系の枕草子みたいなのやめろ」

「清少納言あらわす」

「くだらねぇー」


「まぁ私は後衛だから、キミが戦っているのを後ろで観戦してるからね」

「まて、もし仮にだ。同じパーティーメンバーだったとしたら、回復なりバフ、デバフかけたりやることあるよね? 快適に過ごせるようにさぁ」

「仕方ないなー。風送っとく」

「てかその巨大な芭蕉扇どっからだした」

「アイテムボックスから? ハーレムに必要かなと思って買った。反省はしていない」

「皇帝があおがれるヤツだな。あと、寒いから風は送らなくてもよいからな」


「じゃぁ、やっぱり観戦するしかないじゃん、メガホン必要かな?」

「後衛がなにもしなんですけど、経験値だけ持っていくスタイルを確立される前に抜本的な改革が必要だとおもうのだが、いかがだろうか? あとヤジを飛ばすだけのメガホンは無用!」


「言い方がクドい。いいから働け!」

「あれ、ボクってプロレタリアート文学の中の住人とかだったっけ?」

「いいから、経験値をファーミングしなさいって! キミメンバーよ!」

「それ、パーティーから追放されちゃう呼び方」


「とりあえず、今のうちに戦っている人を放置してそっとみんなでディフェンスラインを下げるよ」

「殺意がすごいオフサイドトラップかなんかですかねぇ」

 世の中は罠でいっぱいなんだなぁ(棒)。しみじみ。ということで今日は罠とかトラップとからしいな。最初にハニトラとか現実の理解度が低い気もするけどね。

 とはいえ罠、トラップって物語のエッセンスとしては欠かすことができないからな。基本はエサを置いて誘引した獲物を捕まえる装置なんだろうけど、発展して人を陥れる策略がユウの求めるところだね。いわゆる孔明が得意なやつ。


「ところでユウさんよ、捕獲用の大きいカゴとカゴの片側を持ち上げ保持する棒とそれに連結したヒモを部屋の隅に置いておくのはどうなんだ」

「キミを捕獲するために決まってるじゃん」

「そんなもので捕まるわけないだろうが」

「あれ? エサのパンツの量が少なかったかな」

「そうじゃねぇ」

「あ、ビキニが足りない感じかな。もっと変態感をましまし?」

「だめだ、この人。どうにかしなきゃ」


「あ、私がエサだよ?」

「なんで疑問形なんだよ。しかもその罠にボクは掛かりそうな気もするから嫌だわ」

「罠は偉大なんだよ」

 なにその信頼感は、どこからきたんだよ。


「実際問題、異世界に転移させられることって、事故とかにまきこまれるとかの確率が非常に高いので、あるいみトラップと言えないこともないんだよ」

「そんなものですかね」

「そうだよ、だってさぁ『コンビニに買い物にいったら異世界』にいたとか、おかしいでしょ? つまり罠だよ」

「まぁ確かになにかしらの作為を感じるな」


「気分転換に『灯台に登ったら突き落とされて異世界』とか、そこに登った時点で異世界フラグを踏み抜いてる系だよね。つまり罠だよ」

「そこまで条件を揃えるのはたしかに確率低いな」


「そうそう、ということでさぁ、この天上のアイスクリームをお食べよ」

「それ最後のひとすくいになるやつじゃん! わかりにくい罠はるなよ」

「でも、あれだよ。全体の流れを見てからならなんとでも言えるんだよ、つまり鼻血をだしてもクシャミをだしても異世界はこちらを覗いているんだよ」

「なにそれ、怖いんですけど。ホラーじゃん」

「あれです、咳をしても異世界」

「やかましい! 漂泊の異世界人にでもなるつもりかよ」


「罠って言えば、時限発動式の魔法陣が書かれたノートとかもあったな」

「先生に余計な記憶をひとつ埋め込んじゃったトラップね」

「違う! ボクの心が重症を負ったトラップだよ」

「心外だよ! なにを根拠にいってるのかな」

「ボクの心が叫んでるんだよ!」

 まったくもう。


「乳棒と乳鉢を渡されるやつとかな」

「じっくりとお胸を見られちゃうやつね、たしかに自爆系の罠だったね」

「腕がパンパンになる罠だろうーが!」

「自分の罪を認めないなんて、こんな大人になっちゃうなんて。めっだよ」

「悟しにきやがったぞ」


「だいたい、いつも水着にさせられるのもある種の罠だよね」

「議論の余地があるな。勝手に脱いでるじゃん」

「いえいえ。キミはなにをおっしゃいますかな。脱げ圧が凄いじゃん」

「そんな圧、見たことも食ったこともない」


「ええ、じゃあ、電車の中でこの人が脱げって言いましたって言ったらみんなどっちを信じると思う?」

「いや、ちょ、それダメなヤツ。社会的に死ぬヤツ」

「だいたい、いつでも肩のス切れないかなーとか思ってるくせに~」

「濡れ衣がすぎる」


「ところで、ひとつ気になるのだが、なんでボクは布団から追い出されたのに、ユウはそこでぬくぬくとしているのかね?」

「ネトゲにログインしたら普通は入りっぱなしじゃん?」

「普通ではないけど、そうゆう傾向もあるよね」

「布団にログインしたら惰眠という今日のミッションをクリアしないといけないからねぇ。ログアウトはちょっと難しいといいますか」

「また、便利な言い訳を思いついたな」


「まぁ学校の準備が終わって余裕があるなら、こっちおいでよ~」

「ボクの布団だけどね」

「ほら、手が冷たくなっちゃってるじゃん。ほらほら入って」

 といいながら、ユウは布団を少し持ち上げてくれる。中にちょーっと肌色がみえるけどなんという蠱惑的な。

「どうぞ~。あったか~いよ。ハグ付きだよ~」

「なんか寒くなってきたのでボクもまだ少しはいろっかな~」

「いらっしゃ~い。ほらほっぺも冷たくなっちゃってるじゃんか」

 とか言いながら頬をなでてくる。なんか脳が蕩かせられてる気がする。コレがハニートラップってやつか抗いがたい魅力だわ。なんかめっちゃ甘やかしモードはいってなくね?


「……ぴぴぴぴぴぴ、アラームなってるよ?」

「うおい! 冬から春先の布団が最大の罠じゃないか!」

 アラームがなるまで二度寝しちゃったじゃないか、あぶねー。そして察し。まったく抗えなかったわ。


 あ、コレが自分をエサにしたやつだったのか。見える罠をあえて仕掛けることによって本命を隠蔽するという高等技術だったんだな。偶然です。

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