第19話 甘いデザートに気まずさを添えて
俺が冷蔵庫からゼリー達をテーブルに運んでみんなのコーヒーのおかわりを準備し終えた頃に穂香は戻ってきた。
「おかえり」
「た、ただいま…。」
落ち着きを取り戻しても気恥ずかしさと気まずさが残っているらしい。涼と美萌はそんな様子の穂香をじっと見つめている。時々俺の方へ顔を向けてニヤニヤするのはやめてほしい。
「ね、ねえ、早く食べない?」
少しの間あった沈黙を穂香が破った。
「そ、そうだね!」
「早く食べよう!」
続いて涼と美萌がそう言ってデザートタイムが始まった。
「それにしても、いろんな色のゼリーがあるね。」
「いろんな果物で作ったからな。その分ゼリーの数も増えた。」
「これ、どれか一つに激辛があるとかはないよね?」
「そんなロシアンルーレットみたいなことしねえよ。」
見た目の感想がひと通り終わってみんなで食べ始める。
「甘い!おいしい!最高!」
「さすがだね、ユージ!」
「そりゃどうも」
美萌と涼の評価は良いものだった。
「う~ん、やっぱ最高~!」
穂香の反応も良し、これは成功だな。
「余ったら持って帰っていいからな。」
「そんなに余る?」
「果物の可食部が多ければその分作るゼリーも増えるんだよ。だからテーブルに出てる以外にもまだ冷蔵庫には大量にあるんだよ。」
涼と美萌がよっしゃ、とハイタッチをする。そして静かに食べていた俺と穂香のほうを向いて、
「さっきはごめんね。」
美萌がそう言ってきた。
「なんだいきなりそんなこと」
「いや、だって私が変なこと言っちゃったからさ。」
「そんなに思い詰めなくても…」
「いやでも…。」
「問題は穂香がどう思うかだろ?」
「ほのちゃんだけの問題じゃないでしょ。ユージくんがどう思うかも問題じゃないの?」
「俺は別にそんな未来でもアリだけど…。」
いきなり何言ってるんだとは思った。ほかの三人も同じことを思ったのだろう。みんな俺のほうを見つめている。穂香は顔を赤らめながら。
「ユージ、それ本当に言ってる?」
「ユージくん、それはほのちゃんと結婚してもいいって言ってるんだよ?」
そんなに深刻さを出してこないで。究極の選択をしているみたいだぞ。
「だからいいって言ってんじゃん。」
「「!!」」
涼と美萌が目を丸くした。それと同時に、横で俺を見つめていた穂香が優しく、それでもしっかりと俺を抱きしめ上目遣いで俺を見てきた。
「裕司、本当に私でいいの?」
「ああ、もちろん」
俺が世間を知らなさすぎるからかもしれないが俺は穂香以上にいい人を知らないし、多分この先も出会うことはないだろう。穂香はかわいいしスタイルもいいし、俺同様家事はできるし、俺の家に私物を持ち込むこと以外は文句の言いようがない女の子である。そう穂香に伝えると、
「嬉しい、大好き」
そう言って顔を埋めてぐりぐりしている。幸せそうだなあ。あと、そろそろ終わらないと前の二人がすごくニヤニヤしていて少しうざいのだが。
「でも、本当に穂香ちゃんはそれでいいの?」
「え?」
涼の質問に穂香は顔を上げた。
「だってユージの話を聞いた限りじゃ、穂香ちゃんへの恋愛感情が伝わってこない感じがするんだよね。」
そう言われて俺は気付いた。確かに俺は穂香へ明確な恋愛感情を持っているわけではない。好きより先に結婚が来ているというなんともおかしな状況なっていた。
「まあそれならそれでいいんじゃない?」
突然穂香がそう言った。
「まだ好きじゃないんだったらこれから好きにしていけばいいんだよ!そしてちゃんと好きになったタイミングで付き合って後々結婚すればいいんじゃない?」
「でもそれって下手したら結構時間かかるかもだよ?」
「どれだけ時間がかかっても私は絶対裕司を落とす!」
すごいな。気合い充分といったところか。そうやってぼーっとしていたら穂香が俺のほうを向いて、
「だから裕司、絶対好きにしてあげるから覚悟しててね♡」
と言ってきたため、
「お、おう…」
と答えるしかなかった。…コイツの笑顔って結構かわいいんだな。
こうして、俺と穂香の婚約者以上、恋人未満という奇妙な関係が始まった。
「よし、じゃあ今日はユージと穂香ちゃんの関係進展を祝してパーティーだね!」
「お前、まさか晩ごはんもここで食べるつもりなのか?」
「え、もちろんそのつもりだけど。」
「マジかよコイツら…。」
そうやってみんなが騒いでいって時が過ぎていく。
はぁ、また次の学年でもこうやってため息が増えそうだな。
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〈あとがき〉
この春休み編はあとちょっとだけ続きます。
更新を気長にお待ち下さい。
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