第18話 人を笑顔に出来るもの、それが料理…らしい
「はーい、できたぞー」
そう言って俺は大きな鉄板を運ぶ。今回作ったのはパエリア。みんなで分けられることと自分でも作ったことがなかったからより多くの感想が欲しかったからという理由で採用した。
「「おおーーっ!!」」
鉄板をテーブルに置いたあたりから涼と美萌がずっとパエリアにむけて好奇心と食欲に満ちた視線を送っている。
「よしっ、じゃあ食べるか。」
「「「は~~い!」」」
「「「「いただきまーす!」」」」
「ウマっ!!」
「おいしー!」
「さっすが裕司!」
三者三様の返事が返ってきた。
「初めてにしては上出来かもな。」
「初めてでこのクオリティーはすごいよ。」
「頑張った甲斐あるよ。」
「もうお店出せるよ。」
「マジか…。」
まあ将来の選択肢としてはアリかもな。
「エビの出汁がご飯に染みててそれもまたウマい!」
よく気付いたな。
「 ‘‘写真” で見ても思ったけどほんと見た目も良いよね。」
「待て。いつ俺の料理の写真見た?」
「ほのちゃんのウィンスタに載ってるよ。」
そう言って美萌が穂香のウィンスタのアカウントを見せてくれた。俺はやってないから分からないからな。そして穂香のアカウントから俺の料理の写真が大量に出てきた。そういえば穂香がよく写真を撮ってたがこのためだったのか。
しかもその投稿達は「#ほの’sキッチン」という意味の分からないタグが付けられているし、その「いいね」の数は必ず10000は超えているから驚きだ。そのせいかフォロワーも10000を超えている。そして当の穂香はというとバツの悪そうな、恥ずかしそうな、そんな顔をしていた。
「何か言いたいことは?」
「すみませんでした!」
穂香はこれ以上ないほどきれいな土下座を見せた。
「まあいいよ。別に俺の方へ害は出てないから気にしないし。それにそれだけ人気出てるから今更やめさせる気にもならねーよ。」
「良かった~。ありがとう」
「あんなふざけたハッシュタグがなければもっと良かったんだがな。」
「ふざけたハッシュタグ?」
「ほの’sキッチン。」
「うっ…。」
そもそもほの’sキッチンと言っておきながらだいたいは俺の家のキッチンだったろうが。まあそれ以上掘るのは面倒くさいからやめておこう。
「そういえばさ、お店できたら従業員として働いてもいい?」
美萌がそんなことを言ってきた。狙いはすぐに読めた。
「お前、まかないとして俺の料理食いたいだけだろ。」
「あ、バレた?」
「欲が見え見えだわ。」
ただ、店を出すかどうかを本気で悩んでしまった。
「でもお店できたら人気出るんだろうなあ」
「そうだね~」
涼と美萌が二人して妄想に耽っている。放っておくに限るか。下手にツッコむと面倒くさそうだ。
「どうして言い切れるの?」
だが穂香はそれを良しとしなかったようだ。
「考えてごらんよ、ユージのお店だよ。」
どういうことだ。説明になってないぞ。
補足するように美萌が話す。
「おいしい料理、それを作るイケメン料理人、そして彼を支える美人妻。この二人がイチャつく姿は想像しただけで…。」
「ちょっと待て。途中からすごい空想の話になってたんだが。」
「空想じゃないよ!これはお店を開くルートが開拓されるときに必ず待ち受ける未来だよ!」
そんな自信満々に言えることなのだろうか。
「その話の前提として俺は店を開くタイミングで結婚してることになるんだが、これについては俺にも分かんないだろ?」
「分かるよ~、だって相手はほのちゃんなんだもん!」
「へっ?」
「ええっ!」
俺より穂香が驚いていた。
「そんなに驚かなくていいじゃん。二人は絶対結婚するんだから。」
穂香を見ると、
「え、あ、あぅ…。」
見るからに戸惑っている。
「穂香?」
「ひゃいっ!?」
本当に大丈夫か?
「大丈夫か?」
「う、うん。わ、私、お手洗い、行って、きます。」
「お、おう。いってらっしゃい。」
そうやりとりを交わして穂香は部屋を出た。
「ほのちゃん大丈夫かなぁ?」
張本人がそんなことを言うな。
「まあいいや。とりあえず食べ終わったところだし、デザートにするか。」
「ちなみにデザートには何が?」
「俺が作ったフルーツゼリー。」
二人がおおっと声をあげた。
とりあえずさっきの “アレ” は一旦気にしないでおこう。それが穂香のためにもなるだろう。そう思いながらテーブルの食器や鉄板を片付けてデザートの用意をした。
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