第8話

 古い公園の中、誰も居ないブランコを優は見つめている。


『ギコ ギコ』


 そのブランコはゆらゆらと揺れていた。優はブランコ暫く見つめ、その後ブランコの周辺を見回す。しかし古い公園内にはベンチ以外に人気はなく、しーんとしていた。


「何を見ているんだ少女よ?」


 優以外に唯一この公園内に存在する人物が声をかけて来た。優はその男に少し警戒しつつも話しかけた。


「あの・・・あそこにあるブランコ・・・。今さっきまであれに誰か乗っていたと思うんですけど・・・、見てません?」


 優は気になった事を男に聞いてみた。見たからと言ってどうなるわけでもないが、何故かあのブランコに乗っていた不思議な人が気になったのだ。


 優から問いかけられた男は直ぐに答えを返さずに少し考え込み、その後に何かを探る様にして、逆に優へと質問をしてきた。


「何故そんな事を聞くんだ?もしも俺が『見た』と言ったらどうするんだ?」


 質問をしたのに質問で返された優だが、男の質問に素直に答えることにした。


「ええっと・・・特にどうもしないんですけど・・・。なんか気になってしまって・・・」


「そうか・・・。なるほど・・・」


 優の答えを聞いた男は再び何かを考え込み、やがて持っていた大きな鞄を開け、一枚の紙を取り出した。


「少女よ、この紙を見るんだ。何が見える?」


 優は変なものを見せる気じゃないだろうなと訝しみ、差し出された紙を見る前に男の顔をみた。その男の顔は至極真面目で、ともすれば優の事を心配するような表情だった。


 流石に大丈夫かな?と優は思い、男の差し出してきた紙へと視線を向けた。


 その紙は千円札くらいの大きさで、外延部に何かの模様、中央に大きな丸とその丸の中に何かの絵がかいてあった。


「えっと・・・、何かの模様と丸、それに・・・」


「それに?」


「何かの絵です。ん~・・・なんだろう?見たことないけど動物ですよね?」


 優がそう伝えると、男の顔が険しくなる。そして更に優へと質問をしてきた。


「その絵ははっきりと見えるか?色は?」


「見えますよ?黒色でくっきりと描いてあるじゃないですか?」


 優は改めて紙を見ながら言った。丸の中にははっきりと、猫とワニでも足したかの様な動物が書いてあるのが見えた。優は、この男が書いたのだろうかと心の中で少し笑ってしまった。


「・・・」


 しかし、そんな男の表情は怖いくらいに無表情になっていた。心の中で笑ったのがばれたのだろうかと、少し優はバツが悪くなり男に話しかけた。


「えっと・・・かわいい動物ですね?そんなかわいい動物が書いてある紙、ほしくなっちゃうなー?」


 男は無表情のまま優の方を見てきた。そんな男の反応に優は驚き固まってしまう。もしかすると更に機嫌が悪くなったのだろうかと優は心配になってしまった。


 男は一言だけ「だめだ」と言って、紙を鞄へと戻した。そして鞄を閉めた後、優の方を見てハッとして顔に手を当てた。そしてそのまま手で顔を揉み解すようにしてから優へと話しかけて来た。


「気を悪くしたならすまない、謝ろう。人に言わせると、どうも俺の素の表情は無表情に見えて怖いらしい。何時もは気を付けてそう見えない様にしているんだが、気を抜くとどうもな」


「あ、いえ。大丈夫です」


 怒ってないのならいいが、少し変わった人だなと優は思った。そしてつい話し込んでしまったが、そろそろ本格的に暗くなってきたので帰ろうと思い、その旨を男に話す。


「すいません。そろそろ私は帰りますね?」


「ああ、すまないな突然喋りかけてしまって」


「いえ、その後会話を続けたのは私ですし。すいませんそれでは行きますね」


「ああ」


 男と別れの挨拶をして優は立ち上がり、公園の出口へと向かって歩いて行った。そして公園の出口に着こうと言うところで、少し離れた位置にいた男から再び話しかけられたので振り向いた。


「そういえば、俺の名前は九重と言う。また会うかは解らんが・・・一応教えておく」


 男から名前を聞いて優は少し考える。最初は不審者かと思い少し警戒したが、話してみると悪い人ではない様に感じられた。なので名前くらいは教えてもいいかなと名乗り返すことにした。


「私は佐十です。それでは・・・」


 名乗り返した後は、九重と名乗った男に背を向け歩き出した。すると九重がぽつりとこぼした言葉が聞こえて来た。


「そうか・・・佐十。なるほど・・・」


「え?何か言いまし・・・いない・・・」


 どうも自分の名字を知っている風だったので、父親の知り合いだったりしたのかと思って尋ねようと振り返ると、すでに九重はいなかった。随分素早い人だなぁと少し笑いながら、優は止めてあった自転車に乗り込んで家へと帰っていった。


 ・

 ・

 ・


 明けて翌日、土曜日の朝だ。

 先日は書店から帰り、その後買ってきた本を読みふけってしまい、結局自分が女になってしまった原因のついて調べる事をせずに眠りについてしまった。なので今日は欲に負けず、調べものを再開させようと、優は朝から気合を入れていた。


「今日は近くの神社や寺、パワースポットとかについて調べてみようかな」


 優が本日調べようと思ったのは神社や寺、所謂神様が関連しそうな所を選び、ついでに同じようなくくりとしてパワースポットも入れてみた。


 優はまずスマホを取り出しキーワードを入力、近くにあるそれらを検索してみる。


「ふむふむ・・・近所の寺に・・・ここには神社か。へえ・・・あんなところにパワースポット?」


 検索して出て来たのは、優も知っているような近所のお寺に、あった事も知らない神社、そして意外な所にあったパワースポット等等、複数の結果が検索された。


 それらの結果をスマホのメモ帳に書き込み、確認しに行く順番をきめると、早速出かける準備を始める事にした。まずは自室に戻り動きやすそうな服に着替え、バックに財布などを入れて準備を終え家を出た。


「よし、じゃあまずは一番近い近所の寺だな」


 優がまず行先に選んだのは近所にあるお寺だった。ここには優も何度か言った事があって、大みそかなどはここの鐘がよく聞こえてくるものである。


 そんな事を思い出しながら暫く歩き、目的のお寺へと到着した。今日は土曜日だったが、観光名所でもないお寺なので人気はなかった。そして観光名所でもないので、流石に屋内へ入って行くのは無理だと思い、適当にぶらぶらと見て回ることにした。


 鐘を見たり、裏手に併設されている墓の方へ行ったりもしてみたが、特に何の発見もなく、ここには何もないと判断し出ることにした。


 お寺から道路へと出て、優はスマホのメモ帳を見る。


「んーっと、次はパワースポットか」


 メモを見ると、少し距離がある小高い丘の上、そこにある岩がパワースポットと書いてあった。


「流石に歩きでは遠いから、自転車に乗って行こう」


 優は一旦家に帰って自転車を持ち出し、目的の場所へ向かってペダルをこぎ出した。そうして1時間程経った頃、ようやく目的地へとたどり着いた。


「ふぅ・・・ふぅ・・・意外と坂がきつかったな・・・。でもその分帰りは楽そうだな」


 少し息を切らしながら、目的のパワースポットである岩を見てみる。結構大きな岩で、高さは3メートルくらいありそうだ。優は自転車を降りて岩に近づき、ペタペタと触ってみる。


「んー?ただの岩だ。まぁそりゃそうかって話なんだけどさ。・・・ん?」


 特に落胆もせずに、半ば何もないだろうと思いながら触っていた時だ、微かに岩が揺れた気がした。


 え?まさか何かあるのか!?と思い岩を触る手に集中する。


「・・・・気のせいか」


 しかしどうやら気のせいみたいで、しばらく集中して手を当て続けたが、手のひらからは全く微動だにしない冷たい岩の感触だけしか返ってこなかった。


 となると、ココも外れだなとスマホのメモ帳を確認する。


「後は・・・神社が二つか。どっちも行ったことないなぁ」


 メモに書いてあったのは神社が二つ。優はそのどちらも訪れたことはなく、スマホの地図アプリを頼りに行くしかなさそうであった。


 優は早速近い方の神社へと行先をセットし、自転車に乗り込んだ。


「最初の方は町の中にあるみたいだし、ついでにご飯でもたべよっかな」


 優はご飯は何食べようかと考えながら次の目的地へと自転車をこぎ出した。


 ・

 ・

 ・


「あぁ~、美味しかった」


 優は現在、有名なハンバーガーショップから出て来た所だった。あの後神社へと行って、最初のお寺と同じように見て回ったわけだが、やはり何も見つけられず、その後丁度お昼時だったのでご飯を食べていたのだ。


「満足したから帰りたいところだけど、そうも行かないんだよなぁ」


 優はスマホのメモ帳を取り出し、最後の1件を確認する。


 それによると、最後の1件の神社なのだが古いモノらしく、今は定期的に人が来て管理しているが、常駐している人が居ないとの事だった。


「何かあるとしたら、ここが一番それっぽいんだけど、どうだろうなぁ・・・」


 如何にも曰くがありそうで期待できるかも、そんな事を思いながらスマホの地図アプリをセットして、自転車へと乗り込む。


 何かあります様に、と思いながら自転車を漕いでいく。結構距離がある場所なので、今日の晩御飯は何にしようとか、そういえばあの本が発売日近かったなとか、色々考え事をしながら進んでいると、やがて道は人気のない寂しい感じになってきた。


 それっぽいなぁーと思いながら更に進むと、やがて石段が見えた。どうやら神社はこの上にあるらしい。優は石段の近くへ自転車を停め、石段を登っていった。


「ひぃ・・・ふぅ・・・。割とあるなこの石段・・・。ふぅ・・・ようやく到着っと・・・」


 思っていたよりあった石段がようやく終わりを迎え、優は最終段の上に腰を下ろし少し休むことにした。


「あぁ~疲れるハズだなぁ・・・」


 優は石段に座りながら、そこから見える光景を見ながら呟いた。


 そこからは遠くの方までが一望でき、この場所の高さがうかがえた。そんな高い場所からの景色は、周辺に人工物があまりない事もあり、とてもいい景観になっていた。優はそんな景色をスマホで撮影でもしておこうと思い、スマホを撮影モードにして構える。


 こんな感じかなーと色々画角を変えつつ画面を覗いていると、何やら違和感を感じた。優はスマホの画面を見て、実際の景色を見て、もう一度スマホの画面を見た。


「何かちょっと違わないか・・・?」


 感じた違和感とは、スマホの画面と実際の景色が微妙に違うのだ。スマホを見ると無いのに、実際の景色を見ると何かがある。


 何だろうと思い、ジッと実際の景色を見ようとした。その時のことだ。急に後ろ側、神社の方から優に向けて声がかかった。


「佐十か・・・?ここで何をしている?」


 誰だ?と思い振り返る。そこにいたのは・・・。


「あ、九重さん?」



 先日名を聞いたばかりの男、九重であった。



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