第2話

 ある朝の事、佐十さとうゆうは寝苦しさを覚え、不快な気分で目覚めた。目を開け、意識が覚醒するまでボォーっと寝転がっていると、段々意識が覚醒してくる。


 やがて十分に意識が覚醒し、起きようとしたところである事に気づく。不快な気分の元はべたべたする体。だがそれが寝汗ならば、不快ではあるが問題ではないだろう。だが優が感じたのは股間辺りに感じる水気だった。


「う・・・嘘だろ!?高2にもなっておねしょだなんて!?」


 優は感じる水気から連想される事を叫んだ。その声は優の記憶と違い大分高いトーンだったが、高2になっておねしょをしてしまったと、凄くショックを受けている優に気付く余裕はなかった。


「うう・・・」


 優は見たくなかったが、見るしかない現実を見るために、恐る恐る布団をめくる。


「・・・え?なに・・・これ・・・?」


 高2でおねしょをしてしまったという羞恥心は、布団をめくり目に入った以上に塗りつぶされ消えてしまった。


「な・・・なんで・・・血・・・?俺・・・一体?」


 布団をめくり優の目に入ったのは、電気を付けぬ薄暗い部屋でもわかる一面の赤だった。更にその赤からは鉄くさい匂いがする為に血だと判断できた。


 優は何処かに重大な怪我を負っていると思い、焦って自分の体を確かめるためにまさぐる。特に血が酷い下半身の辺り、太ももやお腹あたりを触るも怪我を負っている感触はない。まさかと思い股間を凝視する。


「まさか!ここを負傷!?使った事もないのに!!」


 優は恐る恐る股間に手をやる。ココに怪我がありませんように、と祈りながら。すると幸いな事に怪我はなかったようだ。しかし同時にあるはずのものもなかった。


「え?なんで?え?」


 優は混乱しながらベットについている部屋の電灯のスイッチを押し、部屋を明るくする。そしてここで初めて周りの異常にも気づいた。


 その部屋はパッと見はシンプルな感じで決めてある部屋だ。だが所々にファンシーなかわいらしい小物が置いてある。まるで女の子の部屋みたいだった。


 そして異常があったのは部屋だけではない。優は自身にも異常を見つけた。


 まず、パジャマが明らかに女物。更に、パジャマから除く手足は一般的な高校生男子だったはずの優にしては細く、肌質も滑らかだった。頭に手をやると、男子らしく短かったはずの髪が肩を超えるくらいまで伸び、多少ごわごわだった質感も手ですくと何の引っかかりもなく滑らかに流れた。


「な・・・なんだこれ・・・?え?あーあー、あいうえおー」


 困惑して声を出すとその声にも違和感があった。明らかに声のトーンが高く、透き通るような声が出て来た。ある程度声を出して確かめたら、声を出すのを止めて、何かを探すように辺りを見る。


「鏡・・・。あった、しかも全身が見れる大きいのだ」


 探していた鏡を見つけ、持っていなかったはずの全身鏡の前に歩いて行く。そしてその鏡に自身の姿を映すと衝撃的な姿に声が出た。


「か・・・かわいい。え?でも鏡に映ってるってことは、この女の子が俺ってことになるのか・・・?」


 優は鏡に映し出された姿に一瞬見惚れた。その顔はノーメイクだというのに、目はパッチリしていてまつ毛も長い。鼻筋もしゅっとしていて小顔でかわいらしく、顔のパーツの位置も絶妙で美少女という感じだった。


 そんな美少女になった自身を優は見ていたのだが、血だらけのパジャマが視界に入り、それどころではないと思い出す。


「そ・・・そうだ。今はこの血の原因究明が先決だ。姿を見つめるのは後でも出来る」


 優はそう言ったが、今一度鏡を見た。そして鏡に映った姿を見てボォーっとしたが、ある事に気付く。それは血の大半が下半身についていた。それを見て、年相応に性への関心があった優には1つの事柄が頭に浮んだ。


「もしかして・・・、噂に聞くアレ?・・・っは!?・・・うん、しょうがないよな。うん、しょうがない。原因究明のためだしお風呂にでも入って確かめるしかないよな」


 優は何かに言い訳するように部屋を出ようとした。だがまだ乾いておらず、パジャマから床に滴る血に気付き、慌てて周囲を見渡してすでに血まみれのベットからシーツをはがした。そしてそれで血をざっとぬぐい、応急処置だけして風呂場へ向かって行った。


 ・

 ・

 ・


「・・・」


 優は現在リビングのソファーに座っていた。しかし心ここにあらずと言った感じでボォーっと座って宙を見ていた。やがて意識が現実へと帰り、そして見つめる宙の先にあった時計を見て更に現実を見た。


「やっば!学校!」


 時刻は7時半といったところ。まだ始業まで時間はあるが、慌てて支度をはじめようと動き出したが、急にピタリと動きを止めた。


(そもそもこんな状態で学校行ってる余裕あるのか俺?)


 優は自身の姿を見てそう考えた。そして再度自分に問いかける。


(俺は確かに昨日までは男だったはずだ。けど起きたら女、しかも美少女になっていた。そんな俺が学校に行っても、誰だ?とかなるんじゃ・・・)


 優は至極真っ当に考えられる未来を予想し、頭を振る。そしてどう考えても良い事はないと断じ、決意する。


(取りあえず今日は休もう!そんでちょいと確かめてみよう)


 優は自身が他人にどうとらえられるかを確かめてみる事を決め、学校は休むことにした。優は自室に戻り、スマホの中から学校の連絡先を呼び出して通話を始め、なるべく体調が悪そうに、かつなるべく声が低くなるように頑張りながら教師に休む旨を伝える。


「ええ、ええ・・・はい・・・それでは・・・。よし、普段の行いのおかげだな」


 優の欠席連絡は少しも疑われることなくスムーズに受理された。優は普段真面目に学校生活を送っていたので、そのお陰であろうか。


 無事欠席連絡を終えた優は次の行動を起こすために着替えを行う事にした。優はクローゼットの前に移動し、引き出しを開けたところで固まってしまった。


「この服ってどう見ても女物だよな・・・?パジャマからして薄々感じていたけど、持ち物とかも女物に変わっているんだな・・・」


 優は引き出しの中の服を見つめたまま考え、一旦この状況を整理する為に、これまでわかっていることをワザと口に出し考えるようにした。


「起きたら自分は女になっていた。そしてベットは血だらけ。原因は恐らく女の子特有のアレ。部屋の中にある物は一部女物になっている、っと。今わかっているのはこれくらいか」


 口に出した情報を頭の中でかみ砕き、優は一つの推察を思いついた。


「つまり、俺は元々女だった・・・?いやそんな馬鹿な。いやまてよ、こういう事なら・・・いやいやありえない、でも状況から察すると・・・」


 優の中ではそうに違いないとうっすら認めているのに、それを素直に認められない理性がストップをかけ、思いついてしまった推察を素直に口に出せないでいた。しかし、やがて理性もその推察を承認してしまい、ついに優は口にだしてしまう。


「俺は、佐十優が元々女だったというパラレルワールドに意識だけ来てしまった、ということか・・・?」


 優が推察し、ついに口に出してしまったのはとんでもない事だった。そんな事を考えてしまったのは優に流れる血の影響なのかもしれない。そして一度ソレを口に出してしまった優は、次々ととんでもない事を考え付き、口走ってしまう。


「そうだ!きっとそうに違いない!父さんの書いてた小説にも俺みたいな状況の主人公が出てたし、きっとあれはある事なんだ!もしかしたら俺に双子の兄弟がいるとか、母さんが生きている世界もあるのかもしれない!他にも世の中の小説の一部はあり得る事なのかもしれないな!異世界とか、魔法とか!」


 優の考えは次第に暴走したようになり、普段だと絶対ありえないような行動まで引き起こした。


「もしかしてこの世界では超能力や魔法が使えるかも・・・?試してみよ!」


 優は他の事そっちのけで、「火よでろ」や「ファイア!」やら「エターナルフォースブリザード!相手は死ぬ!」等様々な事を、体にバスタオル一枚巻いただけの状態でやっていた。


 現在は夏も終わり秋口に入って寒くなってきた季節だ、すると当然裸同然だった優の体は冷え、無意識に体が震え始める。


 その段階に至り、ようやく優の頭も冷えて来たのか、行っていた妙な事をやめて無表情でクローゼットに向かい、服の中からなるべく男物に近い服装を選び取り身に付けて行った・・・。



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