第6話 ディスコというステージ

黒服の兄さんから挨拶された。美人と同伴はかなり効いてるのか?

そのまま、軽く会釈して、据えた匂いのするエレベーターで

8階まで上がった。


すでにフロアは盛り上がってた。

最近のディスコソングのヒットとアースの登場が

大きいんだろう。


DJに挨拶した時に、さっと一緒にいる武蔵を

見られてウインクされた。


客に混じって、ステップを切って盛り上げたり

新しい振りでフロアを盛り上げるのが僕のしごとだ。

彼女は、乗り切れてないようだった。

ストリップのダンスとディスコのダンスは違うんだろう。


目で合図して簡単なステップと

腕の振りを教えた。

流石にストリップのダンスで鍛えた身体は

見事に反応して周囲の目を奪っている。


すぐにナンパ野郎が近づくが、

顔を見てひいていく。

美形すぎると無理だと思うか、

ヤクザの紐付きだと思うんだろう。


僕はいつものショータイムで

ひと汗かいた。

それなりにファンもいるらしく

ハンカチがどっさり渡される。汗を拭いて返すんだけど。

何が嬉しいのかいまいち僕にはわからない。


抱きついてくればキスくらいするのに、

といつも思う。


「可愛い人よ」がかかったら

次はプロコルハルムの「青い影」でチークタイムだ。

僕は武蔵の横にスッとよった。


すっかり楽しげに踊ってる彼女が

かわいいと思った。


照明が変わった瞬間に彼女を抱き寄せた。

耳元で「チークタイム」と囁く。


踊り疲れたのか、だらりと僕にもたれかかる。

この後、どうするの?私、明日は休みなんだけど。


高円寺の僕のアパートにくる?

高円寺なの?私は高田馬場だから歩いて帰れるけど。

じゃあ、僕は大学にも都合がいいので泊めてもらっていい?

じゃあ、決まりね。

このチークタイムで僕のバイトは終わりだから。

出口で待っててよ。


とっぱらいのバイト料を受け取って

彼女とエレベーターに乗り込んだ。


お腹がすいちゃった。

近所に私の好きなラーメン屋さんがあるから行かない?

僕も腹減ったから嬉しいよ。


桂花ラーメンという豚骨だけどいい?

初めてだけど豚骨は好きだよ。


地震が起きたら絶対に逃げられないペンシルビルが

丸ごと経過ラーメンだった。こんな夜中にこんなに混雑してるのは

人気店に違いない。

狭い階段を登って2階の席に通された。


桂花ラーメンが基本で、キャベツか豚を増やせるのよ。

博多の豚骨と違って細麺じゃないの。

詳しいんだね。

桂花ラーメンは熊本の豚骨なの。

私は熊本出身なのよ。


僕は北海道の炭鉱出身なので九州とは

すごく親近感がある。

桂花ラーメンの味は、

九州から流れてきた「帝王ラーメン」の味だった。


あのさ。僕は北海道の炭鉱町の出身なんだ。

炭鉱にはたくさん九州の人が流れてきてたから

このラーメンも懐かしいんだ。


そうなの?彼女の目が輝いた。

炭鉱町なの?

そう、閉山して東京に流れてきたんだ。


なんだか不思議な1日ね。

だね。武蔵もおっかない彼氏はいないのかい?

ははは。おっかないって方言だよね(w


なんだか好きになりそうだよ。

僕はもう好きになってるんだけど。

変ね、、、。すごく変。


すっかり化粧が落ちた彼女の顔を見て

素顔はもっと素敵だと思った。

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