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俺は──侮辱されたような気がしたんだ。
アイツは、そんな馬鹿にする意味で言ったんじゃないかもしれない。
他の奴が同じ様に揶揄って来ても、軽くシメるくらいで、適当に流せてた筈だ。
でも……アイツは……アイツ、お袋と同じ様な顔で笑いながら言うもんだから……。
全てを、否定された様な気がして──
「けほっ」
っ!?
息がある!
息があるぞ!
なら急いで桃源楼に連れてかねぇと!
生きてはいても、月兎の効果で体の中は『ぶちまけたジグソーパズル』みたいにバラバラのズタズタだ。
桃源楼に連れ帰って秘蔵の霊薬つかわねぇと、二度と元の生活には
「よっと(ムクリ)あー、一瞬息止まったー」
──ハ?
知朱はゆっくり体を起こし、何事も無かったように立ち上がって、ケツをパンパンとはたく。
「お、おい……平気、なのか?」
「平気じゃねぇーよ! ビックリしたわ!」
怒る余裕のある知朱。
……なんだ?
俺、加減してたか?
それか、さっきのは普通の蹴りだったとか……。
「あん? おい、なんだその『ウサちゃん』のコスプレわぁ? 巫山戯てんのかぁ?」
は?
「名前だけじゃなくて見た目もウサギになるだなんてよぉ! 杵だのなんだの月で餅でもつく気か! てか最近も別のウサギキャラと会ってるから被ってんだよ!」
ウサギのコスプレ……? ……まさか!
俺は頭に触れる。
指先に当たる【ウサギ耳】。
嘘だろ……俺、いつのまに『解除』してたんだ……?
『兎の大妖怪』因幡家としての姿。
抑えていた力を解くと、こうして本来の、妖としての姿になる。
耳だけではなく、手首から指先、足首からつま先も、毛に覆われた獣としての見た目に。
コスプレ、と言えば誤魔化せる範囲の変化ではあるが……
いや──問題なのは、そこじゃない。
問題は……さっき、俺が『本気で蹴った』という事実だ。
「ふぅ、やっとドキドキおさまったぁ」
だったら、何でコイツはケロッとしてるんだ?
本来の姿になった俺は、さっきより『十倍』強い。
例え、月兎を発動して無かったとしても、蹴りの威力だけでアバラはボキボキの筈だ。
弾き返すほど腹筋バキバキには到底見えねぇし、なら『妖気での守り』を……
そう、考えた俺はハッとする。
──知朱の腹部。
よく見れば、そこには『高密度に圧縮された妖気』が、髪色と同じ黄金に輝いていた。
何故気付かなかった。
妖気タンクであるコイツだ、ソレを一箇所に集めれば、どれだけ強固な守りになるかなんて想像に難い。
例え俺の本気の月兎でもモノともしないであろう、洗練された美しい妖気の防壁……
しかし。
妖気のコントロールには繊細な技術とセンスが必要だってのに、コイツ……まさかそれも無意識な防衛反応でやってるってのか!?
俺も、天才だの何だの囃し立てられて育ったが……コイツはもう、そういう次元じゃない。
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