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「ふむ」


知朱は顎に手を添え、何か考える仕草。

さっきまであった『無関心』な雰囲気は既に無く、俺を下から上へと品定めするように見て、


「桃源楼の子?」

「……ああ」

「見た事ないね。あっ、もしかして若い子?」

「そうだ。卯月、って名だ」

「アイドルみたいな名前しやがって。やっと僕に挨拶に来やがったかこのヤロー」


それはこっちのセリフ……! と激昂しそうになったが、踏みとどまる。

コイツのペースに巻き込まれるな。

既に、先手を取られた感が否めないってのに。


「君が最初、て事は、君は若い子達の中じゃそれなりの立ち位置って事だね。まとめ役的な」

「だったらなんだ?」

「あはっ、あははっ」


知朱は口元を歪め、


「あ は は は は は は は ! ! ! !」


震える。

大気が震える。

周囲の車からメキメキと悲鳴。

全てが軋む。

コ、コイツ……なんて妖力撒き散らしてやがる!

お袋の血族だからって限度があんだろ!

考えたらそうだ、いくらコイツが自分を一般人だと思っても『待って生まれた才能』ってのは誤魔化せねぇ。

誰も制御の仕方教えなかったのか?

教えても『何言ってんだこいつ?』と突っぱねられたのか?

い、いや、今はそれより……


「テメェ! 何がおかしいんだ!」

「いや、何となく悪者っぽい三段笑いしただけだよ」

「ば、バカにしやがって……」


人をおちょくって心乱そうって魂胆か?

ならそりゃ成功だ。


「ま、君が来てくれて都合が良いのは確かだよ。そりゃ嬉しくて笑っちまうぜ」

「都合が良いだぁ?」


「だって、君さえ落とせば後は若い子みんな僕の駒になるよね?」


「ッ!」


野郎、笑いながらなんつー発想を……!

考えようによっちゃあ妥当な手段ではある。

俺だって仕事じゃあ、先に敵の頭の奴を潰してその下の奴らの士気を下げたりもした。

が、コイツはそれを『味方』に実行しようとしてる。

味方、だなんて俺もコイツの事を思っちゃいないが、俺だって表向きじゃあそれぐらい弁えてる。

なのに……コイツの目は、本気だ。

本気で『遊ぼうと』してる。


俺は、背中に背負った【獲物】を手に取る。


「おやぁ。さっきから気になってたけど、その【杵】はなんだい? 餅つきかい?」


ハッキリした。


コイツは──敵だ。

俺にとっても、桃源楼にとっても。


お袋や老害どもは騙されてる。

コイツの生まれ持った才能やら資質やら上っ面だけのスペックを見て将来性を判断してるのだろう。

そんなんで跡継ぎを決められたら若い連中はたまったもんじゃない。

なに不自由なく過ごして来た甘っちょろいお坊ちゃん……軽く喝を入れてやって矯正してやる。


「『悪いが』、コイツは使わねぇ」


ヒョイ 手に持った杵を背後に放り投げる。


ズンッッッ!!!


「あらあらぁ。何の罪もない車がペチャンコに。随分と重い杵だったんだね。てか、使うだのなんだの、色々穏やかじゃ無いな?」

「ああ。ぶっちゃけ、今日はテメェを一発アレでぶん殴るのが目的だった」

「穏やかじゃないな? けど、捨てたって事は考えを改めてくれたのかい?」

「ああ……改めたぜ。テメェは、この拳で直接ぶん殴る」

「やめる方向に改めて欲しかったけどね。でも、杵よりはダメージ少なそうね」


いいや、逆だ。


「残念ながら、杵より俺の拳の方がよっぽど凶器だぜ。だから『悪いな』って先に謝っといたんだ」

「そんな漫画みたいなセリフ言う子現実に居るんだ。そも、僕に挨拶に来たんだよね?」

「ああ……だから、挨拶代わりの一発だよ!!」


俺は敵に飛び込んだ。

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