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「おい! コレここでいいのかよ!」


ん?

皆で盛り上がってる中、こちらに荒げた声を向けてくる人物。

どうも呼ばれたのは僕な気がして、顔を上げる。

そこに居たのは──


↑↓


◼️ 一週間前 ◼️


「──と、いった進捗です」

「そうですか。報告、ご苦労様です薄縁」


私はカアラ様に頭を下げ、一歩引く。

この半年間、知朱と共に様々な町の問題を解決して来た。

主な任務は、能力を手にした人間の無力化と飛び散った肉塊の回収。

妖力を発する肉塊は、近くに存在するだけで一般人に能力を与えてしまう。

この世の妖や異形の力のバランス整える役目もある絡新家、ひいては桃源楼としては、町一つの被害だとしても放っておける問題ではないのだ。

……ないのだが。

なんとも、ノンビリ、仕事を進めている気がする。

原因は、当の知朱自身が飽きっぽく、数日に一件解決というスローペースだから。

それでも、カアラ様はお怒りにならない。

死んでも口には出せないが、孫にはとことん甘いお方だ。


グララ……!


と。

不意に、揺れを感じた。

地響きに近い。

桃源楼のあるこの神奈備に地震は無い。

と、なると……


「おや。下が騒がしいですわね」


ボソリと呟くカアラ様。


「確認します」と、窓から外を眺める。


カアラ様の私室の位置は桃源楼最上階にあり、現実世界なら雲を突き抜ける高さに位置する。

そんな場所から下の様子が手に取るように解るカアラ様は流石だ。

私も、目を凝らせばなんとか……。


桃源楼の入り口でもある巨大な鳥居。

そこを通らんと向かってくる集団が居た。

集団、いや、軍勢。

武装した筋骨隆々な者達や屈強な巨人達。

数は千ほどか。

現実世界でならものの一時間で国を落とせるだろう。


「敵襲のようです」

「そうですか」


つまらなそうにため息をつくカアラ様。

それほどに『日常茶飯事』。

【財宝】、【人材】、【立地】。

もし奪えたなら、得る物は大きい。

奪えたら、の話だが。


「誰を露払いに行かせましょうか……おや? 【あの子】、丁度いいタイミングで仕事を終え帰って来ましたわね」

「あの子?」


再び、下を覗くと……


一人の、桃源楼スタッフが鳥居の前に立っていた。

アイツか……。

年の頃は、私や知朱と同じ。

背丈も、平均的な若者体型。

そいつを視界におさめて尚、軍勢は歩みを止めない。

取るに足らぬ路傍の石と思われているのだろう。

そのような認識、桃源楼に限っては──たとえあそこに誰が立っていようと──愚考でしかないのだが。


ビュン!


鋭く、足を突き出すスタッフ。

軍勢は『なにをしてるんだ?』とポカーンとしてるが……

その時点で、戦いは終わっていた。


ボンッ ボボボボボンッッッッッ


まるで水面の波紋のように、

スタッフに近い者達から爆発していく。

ここから眺めていると良く把握出来る。

その波はすぐに、最後尾にまで広がった。


……辺りは血肉の残骸で満たされ、宿の前の風景としては最悪。


スタッフもそう思ったのか ブンッ! と脚を横に薙ぎーーそれによって暴風が起こり血肉を舞い上げーーボチャボチャボチャ 桃源楼すぐ側の三途の川へと不法投棄した。

後には、血の滴一滴も無い綺麗な地面。

慣れたような一連の流れだった。


「……(チラッ)」


スタッフが、視線に気付いたのか、こちらを見上げる。

ゲッ、嫌な予感。


その予感通り…… ダンッ! とスタッフはその場から跳躍。

先程の脚技を繰り出したご自慢の脚力で、跳躍の高さはグングン伸びて行って──


私が窓際から離れると、同時に ガシャン! とスタッフは窓のサッシに着地した。


「卯月(うづき)。行儀が悪いから跳んで来るなといつも言っているでしょう」

「へへっ、悪ィなお袋。少しでも早くアンタに会いたくってな」

「嬉しい事を言って……しかし入るなら靴を脱ぎなさいな」

「へいへい(ポイポイ)よっと(スタッ)」


私を無視するようにズケズケと乗り込む卯月。


「ご苦労様です卯月。頼んでいた仕事は上手く行きましたか?」

「おう。終わらせないで帰ってくるわけねぇだろ俺が」


着物のたもとから【ブツ】の入った小袋を取り出し渡す卯月。「確かに」とカアラ様は受け取る。


卯月の仕事は『回収』だ。

桃源楼の利用費をツケにした者の元へ赴き、回収する仕事。

悲しいかな、面倒事になるのが目に見えているので、ある程度の腕っぷしが必要な役職。

卯月は現在、その回収部隊の隊長。

桃源楼初期からあるその大任を、この若さで任されているのは、それだけコイツがカアラ様から評価されている証。

他の若い衆からの人望も、将来、桃源楼の幹部となるのは確実だろう。

……そんな高過ぎる評価によって、卯月本人が思い上がっているのが先行き不安だが。

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