29

↑↓


──と、こんな感じに。

この半年、一部だけでもそんな事があったわけだ。

回想長えな。


……しかし、まぁ。

僕らが色々頑張ったおかげで、『今日の祭り』の客入りは好調。

なにせ僕が主催者だ、失敗する理由がない。

やっぱ僕ってなんでも出来るなー。


「おーい」

「ん?」


呼ばれて振り返ると、一組の男女。


「ここにいたのか」「こんにちはっ」

「誰だっけ?」

「……漫画家だよ。お前に世話になった。てか結構会ってるだろ、『祭りのポスター制作』とか『宣伝』で」

「あはは! 君、知朱ちゃんと違って顔の印象薄いからねー」

「うるせぇな。こんな女顔な男と比べるな」

「そだねっ。事実は小説より奇なり、てやつだよっ」

「ああ、思い出した。さっきの回想に出て来たゴーストライターカップルか」

「回想ってなんだよこえーな」「相変わらずネタになる不思議っ子だねぇ」


──あの後。

シャーマンボブの能力で幽霊少女の成仏は食い止められ、

今はこうして、ちょくちょくその能力を利用させて貰う仲に。

売れっ子漫画コンビに『この街を舞台にした作品』を描いて貰えば観光客も増えるだろう、という考えはドンピシャだった。


「じゃ、なんかあったら言えよ」「じゃーねーっ」


去って行くコンビ。

……と。

矢継ぎ早に、


「やぁ!」「こんにちはですっ」


呼ばれて振り返ると、一組の男女。


「久しぶりだねっ」「今日は盛り上げて行きましょう!」

「誰だっけ?」

「ええ!? 酷い!」

「アッハッハッ!!」

「わ、笑い過ぎだよ団子ちゃん!」

「ああ、思い出した。さっきの回想に出て来たキモータカップルか」

「容赦ないねっ!?」「wwwやっぱり団子のキャラじゃ知朱さんに勝てませんよー」


──あの後。

人形師操の能力で電脳少女のデリートは食い止められ、

今はこうして、操の作ったリアルサイズドールにデータ(魂)を移行させ、ほぼ普通の人間として暮らしている。

まるで現実に飛び出してきたような美少女Vtuberーー本物の方の騒動があったんで流石に見た目と名前は変えてーーのネットでの祭りの宣伝は、この客入りを見ても効果ありの様子。


「それじゃ、団子達は行きますねっ。ほらっ、マネージャーさんもっ」

「ぅ、うーん……男が側に居るのはファンからすれば問題だからスーツ姿のマネージャーとして隣にいる……解っているけどモヤるな……」


去って行くコンビ。


「特にアンタは何もしてないけど感謝されて良いご身分ね」

「ぅおっ。ベリーいたんだ」

「ずっと隣にいたでしょ」


呆れ顔の幼馴染。

彼女も今回は祭りのスタッフとして『羽衣と天衣』を纏っている。

『も』、という事は、僕も同様のコスチューム。

渡して来たのは【おばぁ】だ。

今回のお祭りの為に特別に用意したらしい。

主に僕に着せたいという目的で。

あのババアどんだけ可愛い孫を見たいんだ。


「そういえば今更だけど、あの幽霊もVtuberドールも、動力源たる【肉塊】が近くにないのに自立してるのね。もうあの漫画家とキモオタに『能力』は無いでしょ? 近くにあった肉塊は回収したし」

「あーそれはねー」


僕は羽衣の裾をゴソゴソ漁って【それ】を取り出す。

一口大の蠢く【ミートボール】。


「コレを渡してあるから」

「……それ、例の肉塊?」

「そ。実は君らの知らないとこで『和解イベント』を終わらせててね。いくつかあの子から貰ってたんだ」

「……そういう重要なイベント飛ばしちゃダメでしょ」

「てか和解はわりと初期だよ。もう殆ど力の残ってなかった肉塊の近くじゃあミゲルも操も能力使えないでしょや?」

「その頃から既に……報告しなさいよ」

「あのデカかった肉塊が固定回線なら、宛らこれはモバイルWi-Fiルーターだね」

「時代に逆行したようなデザイン過ぎるわね」

「しかもなんでか、分けて貰った肉塊は『特殊な電波』が一切減らない仕様みたいで、これさえ手元にあれば半永久的に彼女らは存在出来るよ。肉塊ちゃんも、一部を千切っても自身の容量は減らないみたいだし」

「(ボソッ)それはアンタが妖力注いでるからでしょ」

「あっ! ち、知朱様ー」

「おー」


トテトテ走りながら僕の名を呼ぶ天女コスガール。

自分をタンポポと言い張る不思議少女ホコウちゃんだ。

そんな彼女の後ろには、ゾロゾロと子供や大人(?)達も付いて来ていて……


「ち、知朱様っ、どうですかっ、この格好は?」

「めんこいね。でも君だけ裾を引き上げてミニにしてみようか。ここをこうやって(クルクル)」

「ぅぅ……ち、知朱様が望むのであれば……(ドキドキ)」

「一気に下品な祭りになりそうね」

「コラ! 我と同じ格好でいかがわしい真似をするなっ」

「あら毘沙ちゃん。『今日のメイン 』がこんなとこフラフラしてちゃダメでしょ」

「我の許可なく神社周囲で祭りをおっぱじめておいて! よくゆうわ!」


そう、祭りだ。

今更だが、この祭りは毘沙ちゃんのとこで開催している。

そもそもなぜ祭りを? と思うだろう。

理由は、『町の活性化』の為。

僕はこの半年間、せっせと町の人々を救って来た。

しかしそんな苦労をせざるを得ない理由は、全て毘沙ちゃんがポンコツな所為である。

半年間、超能力を見てきた僕だ。

だからこそ分かる。

毘沙ちゃんも、何かの能力者だろう、と。

だからこそ、この少女が自称する『町の神』という肩書き……無視出来なくなってくる。

彼女は最初に言っていた。

『信仰が減って力が弱まり町を守れなくなった』と。

それは。

つまりは、『毘沙ちゃんのファンを増やせば彼女が力を取り戻し一人で町を守れるようになる』という事。

また別のいざこざがあったとしても、毘沙ちゃんに対応して貰う。

それで漸く、僕はお役御免になれる。

その為の祭り。


「てなわけで、君には再び神としての威厳を取り戻して貰うよ」

「……それは最初に『もう興味無い』と申したであろう……」

「ダメダメ。僕の為に再び統治者になっておくれ。だからこそ、今日の祭りは盛り上げて行くよっ」


僕がグッと右腕を上げると、同時に、


「──さ、いいですわよ、貴方達」

「「「ちあきしゃまー!!!」」」


「な、なんだお前ら!? ぐわぁ!」


飛び込んで来た【何か達】の物量に押し倒された。

柔らかく温かい何か達。


「ぅぅん……君達は?」

「わすれるなんてひどーい!」「『はんとしかん』あうのすんごいがまんしてたのにー」「くんかくんか……」


幼女。

四、五人の幼女の群れ。

おばぁの後ろに隠れてたのは見えてたけど、どうやら僕の知り合いらしい。

うーむ……知らない顔だ……こんな美幼女、普通なら忘れないのだが……いや、しかし、既視感が無いわけでもない。

一体、どこで、だったか。


「酷い男じゃのうヌシは。半年間、この者らがどんな気持ちで血の滲むような研鑽を重ねて来たか」

「おや、その様子だと毘沙ちゃんの小学校のお友達かな?」


「どういう解釈じゃ! 聞けい! この童共は、貴様が手籠にしたあの『虫ども』じゃ!」


「な、なんだってー!?」


こ、この子達があの、蝶々やクワガタやカマキリだってー!?


「あんれまぁ、こんなに大きくなって(ナデナデ)」

「こやつ、これっぽっちも信じとらん……」

「わ、わかればいいんですっ」「もっとなでなでしたらゆるしますっ」「すーはーすーはー……いいにおい」


よく知らんが幼女らに懐かれて悪い気はしない。


「チッ……ちょっとガキども、ここをどこだと思ってんの? 少しは『弁え』なさい」

「うるせーばばぁー!」「さっさとそのぽすとよこせー」「はふはふ……このにおいまいにちかげてうらやま」

「踏み潰すぞ虫ケラども……」

「う、薄縁さん落ち着いて下さいっ」


ベリーったら子供相手にムキになって大人げないなぁ。


「ん? てか、君らも小ちゃな羽衣着てるんだね」

「ええ、そう。ですから、この子達もスタッフなのでコキ使って下さいな。『神楽』の時も同様に。そのくらいは出来るよう仕込んではあります」

「毘沙ちゃんじゃなくおばぁの口からそう言うなら大丈夫なんだろうね」

「どういう意味ぢゃ!!」

「よしよし、じゃあみんな、お仕事する前におじちゃんが屋台のおいしいものを買ってあげようグヘヘ」

「「「わーい!!!」」」

「犯罪臭ぷんぷんな発言ね」

「……あん?」


ふと、おばぁはオヨヨと裾で涙を拭う仕草をして、


「あの我儘だった孫も小さな子の世話が出来るほど立派になって……羽衣姿で更に凛々しく見えます……孫にも衣装とはこの事ですわ」


「このババア、人を小馬鹿にしやがって……僕を認めたってんならさっさと今のポストを譲ってくれない? 約束通り仕事は終わらせたぜ?」

「ふふん、何をおっしゃって。肉塊が消えても不可思議な事件は続いてるではありませんか。引き続き調査、解決を」

「その仕事は今日の祭りで威厳と力を取り戻した毘沙ちゃんや、僕がトップに立った『新生桃源楼』の連中に引き継いで貰うよ」

「取り戻すも何も威厳は今もあるわい!」

「そんな甘えは認められませんわよ。請け負った仕事は本人が完遂する……絡新の掟、ひいては桃源楼の社訓です」

「ええい! 掟掟といつまでも上から目線で! なんなら今すぐベリーやホコウちゃんら若い仲間集めて襲撃し乗っ取ってもいいんだぞ!」

「「「ちあきしゃまにきょうりょくする!!!」」」

「ええ!?」「巻き込まないで、マジで」


「オホホホホ。皆歓迎しますわよ。勿論、お祭りが終わった後にでも、ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る